第88話
【夏川雫&砂川健吾】
高嶺繭香にダブルデートを提案してすぐ。
夏川
「翔太くんと高嶺さんをダブルデートに誘ったわよ健吾」
「よくやった姉さん。後は当日のシナリオだな」
「ええ……それより本当に大丈夫なんでしょうね? 下手をしたらダブル不倫デートに発展するわよ、これ」
心配そうな夏川。それもそのはず。
夏川雫という少女には砂川健吾という恋人がいる。
一方、小森翔太には高嶺繭香という恋人がいる。
もちろんいずれも対外的に、ではあるが。
砂川の作戦を一言で表現すれば、小森翔太に夏川雫を寝取らせること。
夏川はすでに
しかし、夏川姉弟は小森には高嶺がいると信じ込んでいる。
そんな状況で『翔太くんしゅき、しゅき、大しゅき』オーラを放てば、小森陣営も修羅場に発展することは避けられない。
もしも小森が
彼ら少年少女たちは相当危険な橋を渡っているとも言える。
ただし、全てを知っている神の感想はこうだ。
馬鹿じゃねえの、こいつら。
「どうやら姉さんはまだ信念が揺らいでいるようだな」
「はい?」
「姉さんは小森を略奪することを一度決めたはずだろ。だったらそれを貫き通さなくてどうするんだよ。いいか、『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だ』」
よく分からない『決め台詞』を口にする砂川。
小森翔太から泉天使を遠ざけるためには姉とのカップリング成立はもはや必要不可欠。砂川にとっても起死回生――引くに引けないと思い込んでいるのだろう。
なんとなく深い言葉を激励か何かと勘違いしたのだろうか。
夏川は『決め台詞』を反芻しているように見える。
やがて彼女は「はっ」と何かに気付いた素ぶりを見せたあと、コクっと頷いてみせた。
それを眺める神の感想はこうだ。
えっ、やだ、怖いんですけど。
「健吾の言う通りだわ。翔太くんに振り向いてもらうためには高嶺さんに刺される覚悟で挑む必要があるわよね。たまには良いこと言うじゃない」
「えっ、あっ、うん」
砂川にとっては特に意味のあることを言ったつもりはなく。
姉の気合いの入った姿を横目で見つつ、ダブルデートの流れを練っていた。
(今回のダブルデート、俺には四つの目的がある。一つめが小森翔太の正体を暴くこと。てっきり肉食系だと確信していたが、酔っ払った姉さんとラブホテルに入っておきながら、介抱に徹してやがった。つまりこの事実によっていくつか考えられることがあるわけだ。例えば姉さんはアウトオブ眼中だとかな。もちろん姉さんには口が裂けても言えねえけど。失神で逝っちまうかもしれねえからな。いや、マジで。あとは高嶺にゾッコン、骨抜きにされているなんかも十分あり得そうだ)
(二つ目が高嶺の小森に対する本気度だ。むろん、本物であったとしても引き下がれないわけだが、本気じゃないってんなら裏から手を回すこともできなくはない。その辺りの機微を確認したい)
(三つめが本命、小森と天使の関係を本人から直接確認すること。これは俺史上、最大の勇気が必要だが、攻めるしかない)
(で、もしも小森が姉さんに対して脈アリだって確信できたら、俺が最低な男だとプッシュだ。ぶっちゃけ精神的に疲弊するが、小森と天使を引き剥がすために背に腹は変えられない。この四つの目的を果たすために俺がやらないといけないこと――それはもちろん暗躍と細工だ。今回は今までと違って俺が現場に入る。姉さん間接的なサポートはここまでだ。俺が直接見聞きすれば必ずこの停滞は前に進むはず。待ってろよ小森、天使!)
問題解決に強い意欲を見せる砂川だったが。
彼の参加がさらなるギャグを加速させることになる。
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