第84話
戻って泉陣営。
いまだ通夜の暗い雰囲気に耐えられなくなった小森は重たい口を開く。
「それより気になったことがあるんですけど」
「私のスリーサイズですか?」
「違います!」
「私が弱って口を滑らせるタイミングを見計らっていたんですよね? 彼氏にも打ち明けたことのない秘密ですけど、上から――」
「わーわーわー。何も聞こえない」
両手で両耳を塞ぎながら口をパクパクさせる小森。
(何で砂川くんさえ知らない泉さんのスリーサイズを僕が聞かなきゃならないのさ! 闇が深すぎるよ!)
「……Cカップです」
「僕が耳から手を離したタイミングを見計らって⁉︎ ひどいよ! 冤罪だよ!」
「胸に視線を感じます。いやらしいですね」
「タチが悪過ぎる!」
と小森がツッコむのと同時に「ふふっ……」と笑いを漏らす泉。
どうやら笑いを堪えるのが限界に来た様子。
「相変わらず豚ですね」
「豚⁉︎ なんか今世紀史上最大の罵倒を浴びせられたんですけど! 落ち込んでいるからって何言っても許されるわけじゃないですからね?」
「まあまあそう言わずにもう少し付き合ってくださいよ。もはやこの世界で私の絶望を理解してくれる人は翔太さんだけなんですから」
「いやまあ、僕を揶揄うだけで泉さんが癒されるならどうってことないですけど……」
「? ドMでいらっしゃる?」
「なんでそこで泉さんが首を傾げるのさ!」
「えっとどなたでしたっけ?」
「突然の一週間フレ○ズ!!」
「とまあ、『森と泉』の漫才はここまでにして――」
「『森と泉』⁉︎ 何そのコンビ名初めて聞いたんだけど!」
「お後がよろしいようで」
「濁りまくってますけど⁉︎」
一通りツッコミ終える小森。
泉の目尻に溜まった涙が拭われたところを横目で見つつ、
「……その、少しは元気が出ましたか?」
「はい。強いて言えばムチで叩き足りないぐらいでしょうか」
「それだけはどれだけ落ち込んでても認可しないですからね!」
「と言う小森であったが、内心では満更でもなかった」
「なにこのナレーション⁉︎ 満更ではなかった? いやいや、全力で結構なんですけど!」
「ふふっ、本当に優しい人ですね翔太さんは。それで、気になったことがあると言うのは?」
ようやく小森の質問に答える気になった泉。
「……そのこの動画はどうやって入手したんですか? もしかしてSNSで拡散――」
「――ああ、違いますよ。これは私が撮影した動画です」
「ええっ⁉︎」
泉の告白に素っ頓狂な声を漏らす小森。
その返答は予想外だった様子。
「翔太さんを遠隔からオペレートするためにインストールしたアプリには位置情報の共有できるものだったんです。それで発信源が消えた近くまで翔太さんを探しに行ったところ、たまたまあの決定的な場面に遭遇してしまったんです」
「それって――」
撮影された動画の出どころを認識した小森の頭の中にある可能性がよぎっていた。
それはただでさえこんがらがっている現状をさらにめちゃめちゃにする的外れな推測。
しかし、小森はずっと疑問だったことを口に出さずにはいられなかったようで、
「――もう一つ気になっていたんですけど、どうして砂川くんはあの場で遭遇することができたんでしょうか? いくら何でもタイミングが良(悪)過ぎると思うんですけど」
ここから小森と泉のズレた推理が始まった。
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