第6話
夏川 雫
結局私は高嶺さんと席を代わることになってしまった。
だって翔太くんときたら期待した目でこっちを見てくるんだもの。
どこか誇らしげなのが腹ただしい。
私というものがありながらそんなに高嶺さんと隣になりたいのかしら。
……泣くわよ。
とはいえまだ大丈夫。焦るほどではないわ。
なにせ私たちは
放課後はいつものように下校できるに違いない。
「ねぇ、翔ちゃん。もしよかったら今日一緒に帰らない? ほら、久しぶりの再会ってことで積もる話もあるでしょ?」
「うん!」
なんでよ⁉︎ だからなんでそんなに楽しそうなのよ翔太くん!
今の『うん!』なんて語尾に♪が付いていたじゃない!
私と下校するときはいつも緊張した面持ちだったくせに!
なんて不満を募らせている間にもせっせと帰り支度に勤しむ翔太くん。
その様子はまるで高嶺さんと二人きりになりたくて仕方がないと言わんばかりだった。
……えっ? 二人きり……?
『「あっ、もしよかったら僕の家に来ない? きっと母さんも繭姉の顔を見たら喜ぶと思うんだ」
「あっ、もしよかったら翔ちゃんの家に寄っていい? 久しぶりにおばさんの顔も見ておきたいからさ」』
ぎゃああああああああああああああああっ‼︎ なにいまの精神攻撃⁉︎ 見計らったかのように息ぴったりだったのだけれど!
心が! 心が壊れちゃう!
いとも容易く私のATフィールドを貫通させるのはやめてもらえるかしら。今の一撃はロンギヌスの槍に匹敵するわ。
って、そうじゃなくて!
えっ、なにっ⁉︎
まさか翔太くん……再会して間もない彼女を自宅に連れ込む気なの⁉︎ 地味ヅラのくせに?
というか幼馴染ってだけで自宅にお呼ばれしてもらえるのかしら。
なにそれ。卑怯にもほどがあるわね。
私だって彼の家にお邪魔したことがないのに。こんなことならフェイクをしてもらっている間に行っておくべきだったわ。
その発想がなかった当時の自分を殴り飛ばしてやりたいわね。
……はぁ。羨ましい。
幼馴染という圧倒的な戦力に叩きのめされている間に教室を後にする二人。
えっ、えっ、ちょっと待ってよ! もう少し私のことを気にかけてくれてもいいんじゃない⁉︎
急いで追いかけなきゃ! 彼の部屋で二人っきりになんか……絶対にさせてあげないんだから!
「あの……夏川さん。このあとちょっと時間いいかな?」
「あア”ん?」
「ひぃっ! ごめんなさい。何でもないです!」
名前も知らない男子生徒から話しかけられてしまった私は無意識に殺意を放ってしまっていた。
その気に当てられた彼は
こっちはそれどころじゃないの。モブは引っ込んでなさい!
そのモブである小森翔太の動向が気になる夏川雫であった。
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