リヴィーツァ家の家庭教師

山座一心

プロローグ

旅の終わりに

 血の臭いが充満する聖堂に、肉を突き刺す音が虚しく響いていた。


 黒髪の女が血まみれの刀を握り、少女の遺体に向けて振り下ろす。

 何度も何度も。

 肉を穿ち、骨を砕き、刀の刃がこぼれるのも構わずに、ひたすらに刺し続ける。

 その行為にどれほどの意味があるのか。なんの意味もなかった。

 少女の中は空っぽで、女になにも与えてはくれなかった。


『あんたさぁ、どっか行ってくんない?』


 頭の中で、声が響いた。

 赤毛の少女の、うんざりした顔が浮かぶ。

 黒髪の女は答える。

「うるさい……」



『シキブ殿!また生きて会おうなっ!』


 別の声が響いた。

 眼鏡をかけた、背の高い少女の笑顔が浮かぶ。

 女は答える。

「うるさい……」



『お馬鹿なシキブ!私なんかに騙されて!!』


 また別の少女の声が響く。

 その声は、女の前で骸となっている金髪の少女のものだった。

 女は答える。

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ……!!!!」


 女がどれだけ怒りをぶつけても、嘆いて涙を流そうとも、金髪の少女が答えてくれることはなかった。

 彼女は口の端を満足気に釣り上げて、光を失った目で女を嘲笑っていた。


「嗤うな笑うなワラウナ……ッ!!」


 もう返り血も浴び尽くすほどに刺し続け、刀を握る女の手は感覚を失いつつあった。


「わらうなよ…………」


 消え入りそうな声で呟いて、女は穴だらけの少女の体にすがりついた。

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