第141話

「全部が嬉しい。君が新しい人生を歩もうとしてくれていることも、身体の調子が悪いことを正直に伝えてくれることも。あのおかしな錠剤のことが、ずっと気になっていたんだ」




 ミオは、オレンジと青が混ざる空を見た。




「天幕を畳んで、青の部族の村に参りましょう。実は、タンガ様に黒い水の採掘の話をジョシュア様のお耳に入れる際、可愛い顔でおねだりするように言われていたのです。




 腕に抱いて連れて行ってもらえたら、納得してくださるかもしれません。……でも本当は、ジョシュア様と片時も離れたくないから、こんなことをお願いするんです」




 残されたわずかな時間を、全部あなたの傍で使いたいから。




 本心まで零れそうになって、唇を噛んだ。




「僕もだよ。君ともう二度と離れたくない」と、囁かれてミオは呻きそうになった。




 北斗星号に天幕やミオ、ジョシュアの荷物を。十字星号に二人を乗せ、青の部族の村を目指す。




 ジョシュアの腕に抱かれて、旅をするのが幸せだった。命が肉体をふっと離れるような感覚が何度かやってきて、その度にジョシュアにしがみついた。




 やがて、二頭のラクダはオアシスを囲むようにできた小さな村に辿りつく。マデリーンの離宮の中庭のように花が生い茂っていて、いい匂いをさせていた。




「この村も、天国のような香りがしますね」




 ミオはジョシュアの腕の中で鼻をひくつかせ、ジョシュアも感想を漏らす。




「こんなに花が咲き乱れている。家の軒先にも。穏やかないい村なんだな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る