第140話

 ミオは這って、自分の荷物が置かれた場所まで行った。朝、仕舞った革の小袋を再び開け、中身を手のひらに全部出してみた。




 残りは十個。




 迷わず二粒口の中に入れて、一気に噛み砕く。一粒では効かなくても、量を増やせばまだ少し効き目はあるかもしれない。




 その分、身体にくる反動も覚悟しなければ。




「サライエまで、……ジョシュア様との別れの日まで持ってくれ、この身体」




 生きてきた中で、一番虚しい決意をミオはする。




 背後でジョシュアの健やかな寝息を聞いていたら、喉がぎゅっとしまり荷物に突っ伏して泣いてしまった。




「……ミオさん?」




 泣き声に気づきジョシュアが寝ぼけた声を上げる。後ろから柔らかく抱きしめられ、ミオは幼子のように声を上げて泣いた。




「何がそんなに悲しいの?」




「色んなことがあったなと思い出していたら、込み上げてくるものがあって。やっと……阿刺伯国で生きる日々が終わるなと思って」




「それは、僕について英国に来てくれると解釈していい?」




 ジョシュアが、ミオをきつく抱きしめてくる。本当に窒息しかねないほどの力だった。それほどまでにジョシュアは、ミオと一緒に生きることを喜んでくれている。そこまで望まれて、ミオもまた嬉しくて堪らなかった。




 そして、どこまでも悲しかった。




「ジョシュア様。お願いがあります」




「ミオさんからお願いとは珍しいね。何かな?」




 胡坐をかいたジョシュアが、ミオを膝の上に横抱きにした。本当に幼子になった気分だった。




「青の部族の村まで、腕に抱いて連れて行ってもらえませんか?身体の調子があまり思わしくなくて」




「無理はいけない。しばらく、このオアシスで休んで行こう。なんなら医者を」




「それでは、サライエに着くのが遅くなってしまいます。俺は早く奴隷のミオを終わらせたいのです」




 すると、優しく唇を落とされた。ジョシュアの目が潤んでいる。

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