第136話

 たった一つの不安は、身体に疲れが溜まっていくことだ。涼しい王宮での生活に身体が慣れてしまったのか、それとも、ジョシュアに会うために時間を空けずに何回も飲んでしまった滋養剤の影響なのか。




 一連の騒動でずっと張っていた気が、一気に緩んだというのもあるかもしれない。一日ごとに昨日の倍、旅が辛くなっていく。




 自分の身体は少しおかしい。




 ようやくミオが認めたのは、王都を出て六日を過ぎた頃だった。まだ暗いうちから町を出て目指したオアシスは少し距離があった。鉛のような疲労とともにミオは起き出し、ラクダを走らせた。




 青の部族の村はそこからもう一息で、夕方出発すれば真夜中になる前につけそうだった。しかし、疲れすぎていてタンガに再び会えるのが嬉しいはずなのに、心が弾まない。




 ミオは、夕方まで身体を休めるための天幕を張ろうとした。支柱を組み立てて布を張り紐を引っ張ろうとするが、天幕は完全には持ち上がらなかった。




 山羊の皮をなめして作った幕はとても軽いはずなのに、今日のミオには重くてたまらない。サイティの下でブルブルと腕の筋肉が震える。




 とうとう、紐を離してしまった。ダンッと大きな音を立てて天幕が倒れる。二頭のラクダから荷物を下ろしていたジョシュアが駆け寄ってきた。




「ミオさん。怪我は?」




「ありません。ちょっと、ドジしてしまって」




 身体に力が入らなくて、とミオは言わなかった。ジョシュアは心配症だから、近くの町までラクダを走らせに医者に見せかねない。




 少しずつお互いの身体の距離を詰めている最中なのに、水を差すようなことをしたくない。

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