第116話

 ミオは、ブレスレットがいつまでも元の持ち主の手首にはめられないことにじれて、サミイの手を取って傷のある方の手首に無理に嵌めた。




「サミイ様。ジョシュア様がきっと何とかしてくれます。俺は、サライエでラクダ使いとして働いていました。『白』の俺には誰も触れようとしませんでした。




 けれど、ジョシュア様は、そんなこと気にすることなく、俺に接してくれました。素直になれない俺を、励ましたり褒めてくれたりしました。色んな喜ばせ方をジョシュア様は知っていて、だからきっと今みたいな状況も驚くような案を思いついてくれるはずです」




「……はい。ジョシュア様は、そういう方でしたね」




 涙まじりだったが、ミオは初めてサミイが笑うところを見た。その笑顔に見惚れていると、駆けてくる足音を聞く。




「ミオさん。サミイ」




 振り向くとジョシュアがいる。




「ジョシュア様。お食事は?」




「マデリーンが急に席を外してしまってね。どうやら、アシュラフを置いて離宮に戻ってしまったらしいんだ」




 サミイが、口元を手で押さえ顔を青くする。今にも倒れてしまいそうだ。




「マデリーン様はきっと怒ってらっしゃるんです。私みたいなのがアシュラフ様の御傍にいるから」




「サミイ。マデリーンは人を嫌うような子ではないよ」




 元恋人は優しくサミイの肩を叩く。




「ジョシュア様は、マデリーン様とお知り合いなのですか?」




 ミオは、どうしてジョシュアが西班牙の第一王女の性格まで知っているのかと不思議に思って尋ねた。




「グレートマザー主催のダンスパーティーで、何度も僕達は会っているんだよ。夜通し若い男女が踊るんだけれど、僕もマデリーンも苦手で休憩室がメイン会場だったんだ。恋愛の話とか、本の話とかずっとそこでしていたね」




「ジョシュア様。是非、アシュラフ様とマデリーン様に橋渡しを」




 サミイはジョシュアに詰め寄った。それは、大好きなアシュラフと離れることを意味するのに、サミイは必死だ。




「アシュラフ様は、マデリーン様に宛てて熱心に手紙を書いておりましたし、二週間前に王都に到着されたからは、差し上げた離宮に毎日足を運んでおりました。ただ、一度も会っていただけないのです」




「いいよ。会いに行こう」とジョシュアが頷いた。

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