第115話
次にアシュラフとマデリーンが座り、招待客も着席となった。アシュラフとマデリーンに食事を運んできたサミイに、アシュラフが何か伝えている。
口の動きを見ていると、『今までご苦労だったな』と言っているようだった。踵を返したサミイが、他の給仕にぶつかりかける。
「ジョシュア様。俺は、ここで失礼します。サミイ様の傍におります」
席から腰を浮かせかけたジョシュアに、ミオは後ろから囁く。
走ってサミイを追いかけた。このところずっと涼しい屋内で過ごしてきたはずなのに、少し駆けただけで息が切れた。
「サミイ様。お部屋に戻るならご一緒させてください」
足を止めたサミイは、目に涙をためていた。うまく喋れないのだろう。何も答えず、また速足で歩き出す。
「大丈夫ですか?アシュラフ様に何か言われてお辛いのでは?」
サミイは細い背中を震わせながら、首を振った。
「ミオ様。私は今夜中に王宮を立ちますので」
「どこに行くっていうんですか?」
ミオは、ブレスレットを外しながら言った。
「お返しします。これは、サミイ様に腕に光っていてこそ美しいものだから」
「そんな。アシュラフ様がミオ様に差し上げたのですからどうぞ、このままミオ様が」
「いいえ。元々はサミイ様のものです。それに、アシュラフ様がこのブレスレットを本気で俺にくれたわけじゃないことぐらいわかっています」
手に押し付けると、サミイは力なくそれを掴んだ。
二人は、言葉少なに歩き出す。サミイの手の中に掴まれたブレスレットを見た。
ミオもサミイも高価な宝石が幾つもついたブレスレットを、自分は貰えないと押し付け合って悲しんでいる。アシュラフが言ったとおり、贅沢な不幸に溺れている。
ジョシュアの昔の相手と並んで歩いていて、不思議な気分になった。
サミイは、ジョシュアの心に深い傷を負わせた人物だ。そして今後、ミオの愛しい人を独占する存在になりうるかもしれない。なのに、憎めなかった。
サミイが、手首に深い傷を負っているからだろうか。いいや、一心にアシュラフを愛するサミイを見て、やはり彼の傍にいさせてあげたいと思ったのだ。
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