第110話

 王宮にたどり着く。ジョシュアが与えられているのは大きな客間だった。ソファーや椅子があり、部屋の奥に大きな寝台がある。




「ミオさん。いつまでもブランケットだと大変だろうから、僕の夜着を」




 トランクを積んだ部屋から、ジョシュアが持ってきた。羽織ると涼し気な花の香りがする。ジョシュアの匂いだと思った。ミオは、ジョシュアにロマンス小説を返そうと荷物部屋に向かった。




「ジョシュア様。これお返しします」




「もしかして、中身を見てしまった?」




「あの……。……少し」




「か、借りものなんだよ、これ」




「へ、へえ。そうだったんですか」




 会話がぎこちなくなり、ミオは話をそらした。




「それにしても凄い荷物ですね。『白の人』のパレード中に増えたのですか?」




「いや、半分はサミイのものだ。王宮勤めは明日で終わりと一方的にアシュラフに言われたようでね」




「本当に、アシュラフ様はサミイ様を手放すおつもりなのですね」




 部屋に連れてきてもらっても、何の問題も解決していないのだとミオは改めて思った。




 ジョシュアは、サミイを探して部屋のドアを次々と開けていく。




「サミイ。サミイ。どこだい?」




「いらっしゃらないのですか?」




「どうしよう。思い余って……」




 ジョシュアの顔色が、だんだんと青ざめていく。




「他の部屋も、探してみましょう」とミオは声をかけた。広い王宮を明日の準備のためにまだ起きていた召使いたちに頼んで探してもらう。だが、いくら名前を呼んでもサミイは一向に表れなかった。




 ジョシュアは、ミオを連れて王宮の端を流れる川までやってきた。




「いない。ここでもない」




「ジョシュア様。俺のいた離宮はどうでしょう?アシュラフ様は滅多に使わないところで、サミイ様も知らない隠れ家だとおっしゃってました。けれど、サミイ様のことです。本当は知っているんじゃ」




「行ってみよう」

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