第107話

 外に出ると、ミオはラクダに乗せられた。ジョシュアも後ろに跨る。




「王都のすぐ傍に、僕が子供の頃に遊んだ小さなオアシスがあるんだ。行かない?」




 ラクダが、王都の道をゆっくり歩き出した。ミオもジョシュアも無言だった。ミオはジョシュアの胸に顔を埋める。




 王都の門を出て数十分。




 真夜中のオアシスに人はいなかった。水辺までやってきて、ジョシュアは跪き立っているミオに抱きつく。




「ひどいことをされたんじゃないかい?」




「こんな格好なのは、アシュラフ様のお付きの方が勘違いして俺の夜着を奪っていってしまったからです。アシュラフ様は、昔話をしてくれた以外は何も。確かめてもいいです」




 身体に巻いたブランケットを剥ぎかけると、ジョシュアはそれを止めさせた。




ジョシュアの顔が近づいてくる。唇が重なってミオは吐息を漏らした。




 テーベの街で離れ離れになって以来、どれほどこの瞬間を待ちわびただろう。




 他の人間が独占するべき唇かもしれないが、今のミオは奪ってでも味わいたい。




「……ミオさん」




「ジョシュア様。んっ……」




「ミオさんっ」




 お互い名前を呼び合って、舌を絡め合う。




「明後日、王都をお立ちになるとアシュラフ様が。サミイ様と行ってしまわれるんですね」




 すると、ジョシュアが力任せに浜辺に押し倒してくる。ブランケットをはだけられ首筋に、鎖骨に、胸の飾りに次々と激しく口づけが降ってくる。獰猛に求められるのが嬉しく、そして無言な態度が悲しかった。




 また、唇にジョシュアの唇が戻ってくる。互いの唾液を飲み干すほど求め合った。馬乗りになったジョシュアの下半身が猛っていた。反り返った雄でこのまま貫かれてしまいたいと思った。




 オアシスに水鳥が着水して二人は我に返った。ジョシュアがミオの身体を起こす。座って湖面を見つめた。ジョシュアの肩にもたれることができて、幸せだった。




「アシュラフ様から、いろいろ聞きました。御三方の少年時代のこととか。ジョシュア様は大変な思いをして英国に渡られたこととか。サミイ様も、ずっと心に傷を抱えて生きてこられて。それを、アシュラフ様が支えてきて」




 喉が詰まって涙声になりかけた。

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