第104話
「……サミイ様ってどんな方ですか?」
「美しすぎて、不幸な奴だ。父に性の道具として、幼いころに召し上げられたから。俺とジョシュアは、サミイを自分達のそば仕えにし、サミイが父の道具になる回数をできるだけ減らそうとした。
最初にサミイに惹かれたのは、ジョシュアだった。ジョシュアは俺より一日早く生まれていて、普通だったら時期王として大切に扱われる存在だったはずだが、公然の隠し子だから、王位はなく俺より劣った扱いを受けていた。そんな二人だったから、互いの傷に惹かれあったんだろう」
「知りませんでした。ジョシュア様は、王宮での話をあまりされなかったので」
「全然、吹っ切れてないだろうからな」
と話すアシュラフの息が背中にかかる。
「ジョシュアは、奴隷で『白』で父の道具として扱われていたサミイを対等に扱った。サミイは、相手に優しくされたり大切にされることに慣れていなくて、始終混乱していた。ジョシュアの知らないところで、落ち着かせるのが俺の役目だった。
サミイは、いつもジョシュアとの終わりを考えていた。愛される今が恐ろしいと。ジョシュアに愛されるようになっても、父の道具であることは変わらなかったしな。父は、とても独裁的だった。四年前までの阿刺伯国の状況を思い浮かべてみればいい。殺伐としていて法律でがんじがらめで。父の性格そのままだ。
だから、ジョシュアは英国に渡ることを決意した。サミイを連れて。与えたがりのジョシュアは、最大の愛を与えたと思って舞い上がっていたが、実はサミイに、最大の恐怖を与えただけだった。もっとゆっくり溶かすように愛してやらなければいけなかったのに、若いから突き進むしか知らなかったんだろう。
英国に渡る前の晩、サミイは川に入って手首を切った。ジョシュアに愛されなくなる未来がやってくるだろうから、その前に自分で終わらせると。あいつが幸せを怖がるのはもう病気の域だ。サミイを愛しているくせに何も分かっていないジョシュアに俺は言ってやった。サミイを置いて二度と阿刺伯国に戻ってくるなと」
長い昔話が終わった。アシュラフが長い息をつく。当事者でないミオでさえ苦しくなる話だった。
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