第103話
「え?あの方が王都にやってきてもう二週間近いのでは?」
「そういう関係なんだ、俺たちは」
「最初から冷え切った関係なら、どうしてサミイ様を手放したりしたんです?アシュラフ様は、全身でサミイ様を気にされています。俺を慈しんでくれるジョシュア様と同じだから分かります」
「この状況で言うねえ、お前も」
と言ったアシュラフは、首筋に鼻を埋めてきた。
「ああ、いい匂いだ」
「ひっ……」
「何だその悲鳴は?俺は、明日から王だ。それでも嫌か?」
「……」
「沈黙か。なかなか賢いな。だったら、都合のいいように解釈しよう」
声色から、本気ではなさそうだった。ミオをからかいながら、慰めているだけのようだ。
「……さっき、俺が泣くかもしれないから、傍にいるだけだとおっしゃったじゃないですか」
「ジョシュアがいいか?」
「……。……っ」
答えるだけ無駄だと、無言を貫こうとしたら首筋を噛まれた。
「もう一度聞く。ジョシュアがいいか?」
「……はい」
「なら、ジョシュアと出会う前のお前だったらどうだ?身体さえ開けば、辛い肉体労働から解放されると喜んだんじゃないのか?お前は真面目そうだから、俺に尽くそうとすらするかもしれない。
けれど、ジョシュアから愛というものを教わって、お前は贅沢を覚えた。今はさしずめ、贅沢な不幸中ということだな。お前も、俺も、ジョシュアも、サミイも、きっとマデリーンも、贅沢な不幸に溺れている。それだけだ」
アシュラフに、後ろから抱かれながら思い出す。テーベの街で、ジョシュアが相手を愛で押し潰してしまったと語ったとき、ジョシュアを手放した相手をなんて贅沢な人だと思ってしまった。
最下層奴隷で『白』の自分が、明日には王になる男の申し出を拒んでいるのを他人が見たら、贅沢なことだと感じるだろう。
だが、やっぱりミオにとっては、ジョジュアともう関係を深めることができないのであれば、不幸でしかないのだ。
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