第85話

 サミイは、汗で張り付いたミオの前髪を掻き分け、額に手を当てて体温を確かめる。




「大分、容体が落ち着かれたようですね。冷たい水をご用意します。少しお待ちください」




 ミオの額から手を離したサミイは、部屋の隅でギッと鳴った音に素早く振り返った。そして、そそくさと幕を捲って出て行った。




 やがて、嗅いだことのないような淫靡で上等な香りが部屋に漂い始めた。




「今日は一日中、お忙しいのでは?」




「もう俺がその場にいなくてもなんとかなる」




 サミイが、幕の外で話している。




 香りは、この人物が連れてきたようだ。




ミオは、自分が置かれた状況を思い出していた。




 イリアの街までジョシュアを追いかけて行って、輿に飛び乗った後、引き離された。とすれば、ここは王都に向かう途中に寄せてもらうという大富豪の館だろうか?




 なら、奴隷印を額に持つ『白』のサミイが、手首に美しい宝石のついたブレスレットを嵌めているのもわかる。大富豪に愛でられる存在なのだろう。




 少し乱暴な足音が聞こえてきた。




 薄い幕越しに相手の姿がぼんやりと見える。




 背丈や肩幅に見覚えがあった。




 ジョシュアだ!




 ミオはふらつく身体で寝台の上を這って端まで行く。呆れるほど大きな寝台で端に行くだけで息が切れた。




「やっとお目覚めか?」という声とともに幕がかき分けられた。




 相手に夢中で飛びついた。光沢のある衣装からは、ジョシュアが漂わせる花の香りとは違う、淫靡な匂いがした。

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