第65話
ソアレは、阿刺伯国唯一の歓楽街だ。水不足で何百年も前に死に耐えた街を、数年前、王がカナートを引いて再生した。
阿刺伯国では、表向きに禁じられているお酒を飲ませてくれたり、華やかな女性たちがいいことをしてくれる店がたくさんあり、欧羅巴人に人気だった。
ミオも何度か案内したことがあるが、女性たちは皆、女神のように美しかった。
うなだれるミオに女将は、「泊まるなら後から宿代を持ってきな。出ていくつもりならとっとと荷物をまとめな」と言い去って行った。
椅子に座って、二階の窓から往来をぼんやり眺めた。
「ジョシュア様」
ミオは、ソアレの街で美女を腕に抱き朝寝を楽しんでいるかもしれない男の名を呼ぶ。
旅の旦那様が何をしようと、奴隷は非難することはできない。
そんなのは分かっている。
でも、もし仮に本当にジョジュアがソアレにいるのなら……。
「俺じゃ、敵わない。この身体は、美しくもないし、柔らくもない。ジョシュア様の欲にも満足に応えられていない。だから、ソアレで楽しんでいたって、しょうがないじゃないか」
理由を並べて、自分を納得させようとすればするほど、大切にしていたものを取り上げられたような、悲しみとかすかな怒りが沸く。
「ハハッ。これって、嫉妬というものなのかな?旅の旦那様と顔も知らないソアレの女性に?奴隷のこの俺が、嫉妬?随分贅沢になったものだな。ジョジュア様との旅が終わった後の日常が辛くて堪らなくなるよ。今が、幸せすぎておかしいんだ」
自重しないとと言い聞かせ、ミオは立ち上がる。
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