第51話

「僕も怖いよ。昔、愛で人を押しつぶした愚かな人間だから。ミオさんを愛するのが、すごく怖い。君にのぼせ上がって、追い詰めて、苦しくさせてしまうかもしれない」


 奴隷商人に小さい頃売られたミオは、両親の愛を知らない。


『白』だから、友人も恋人も持ったことがない。


 だから、ジョシュアが恐れる愛というものがよくわからなかった。


「僕が君に魅かれたきっかけはね」


 ジョシュアが語り始める。


「サライエの宿屋街で、泣きながらラクダを引いている姿を見た瞬間だった。正直、泣き顔にそそられた。


辛そうな君に手を差し伸べて、溺れるほどの愛を与えれば、簡単になびいてくれるんじゃないかと、良くない下心が湧いた。だから、一度は砂漠の旅を断った。


でも、海辺でまた泣いている君と出会ってしまって、どうしても心が疼いた。差し伸べた手で、君を窒息させてしまうかもしれないと、ずっと気にしながら旅をしてきた」


 欲を宿した瞳が艶めかしかった。ミオの身体に、ぴりぴりとした痺れが走る。


「君がそれほどまでに怖いと言うなら、旅の終わりまで試させてくれないか?あと二十数日間、旅をしてみて、君が僕のことを嫌だと感じたら全力で逃げていい。お願いだ」 


 ジョシュアの身体にそっと手を伸ばすと、細かく震えていた。


 ミオと同じく、怖いと言ったのは本当だったのだ。


「ミオさん。どうか、顔をあげて」


 ジョシュアが静かな声で言った。


 ミオは、おずおずと顔をあげ、ジョジョアのハシバミ色の瞳を見つめた。


「君を慈しみたい。絶対、傷つけたりしない」


慈しむという宣言通り、今までで一番優しく唇が落とされた。

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