第3章

第52話

第三章


 宿に辿りつくと、二人は誰もいない中庭でそそくさと水を浴びた。


砂漠に出ると細かい砂が入り込んでしまうので、水浴びをしなければ寝れたものではないからだ。


 ジョシュアは下穿き姿で、ミオはジョシュアから借りたタオルを腰に巻いて、部屋へと戻る。


 ドアを閉めると、二人きりの密閉された空間が出来上がって、ミオは息苦しさを感じた。


「きちんとした返事を聞かせて欲しい」


 ジョジュアが寝台に腰かけ、真剣なまなざしで言った。


 ミオは、聞こえないふりをして、旅の荷物を探る。


「俺、今夜は床で寝ます。ジョシュア様もお疲れでしょう。早くお休みくだ……」


 ミオが話している途中で、ジョシュアが立ち上がり、距離を詰めてきた。


 その表情に、いつもの微笑みはなかった。


 後退りをする。


 叩かれる?


 それとも、蹴られる?


 狭い宿屋の一室は、すぐに行き止まりとなり、壁に背中がぶつかった。


 真正面に立ちふさがられる。


 壁際。肌の露出。


 状況は、旅行社で店主に性的な罰を受けるのとよく似ていた。


 ジョシュアを押しのければ、右へも左へも逃げることは出来るのに、硬直した身体では息を詰めて罰を待つ以外なかった。


 ジョシュアが腰をかがめ、ミオの耳元に口を近づけてくる。 


『何をさせられるかわかってんな?』


「大切な人を、床で寝させるなんて、そんなことさせられないよ」


 脳内では、旅行社で店主に言われた脅し。


 耳が拾ったのは、優しい旅の旦那様の言葉。


 もう一歩も後ずさる隙間はないというのに、ミオは混乱しあがく。


壁に腰のタオルがこすれて、結びが溶けた。


 はらりと床に落ちる。

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