第44話

 旅行者に手を振って別れ、また二人で街を歩き出す。


「ジョシュア様は、どうして連勝できたんですか?」


「彼らは、誰が勝つか順番を決めてやっているだけだから、勝つ人間にいいカードが集まる。その法則さえ分かれば、簡単なことだよ」


「どこで、そんなことを?」


「当然良くない場所さ。僕は十代後半は、悪いことばかり覚えていたんだ。あいつらがミオさんのことを悪く言うものだから、やり込めてしまった」


 生まれてこのかた、日の当たる道を歩いて来たとばかり思っていたジョシュアにそんな過去があったなんて、意外だった。


 昼食代わりに甘いものを出す店に寄った。土産物屋を冷やかし、食料品を扱う店で、数日分の食料を買い込んだ。テーベの街を中心に、北から西にかけて数時間で辿りつけるオアシスが幾つかあるので、宿は七日間押えていた。


 日陰を選びながら歩いたつもりでも、やはり日中動き回るのは滋養剤が切れてしまったミオの身体には辛かった。甘い物を食べている最中から耳鳴りがし、土産物屋を見ているあたりで頭痛がし始めた。


 食料品の店で果物を選んでいると、日中に身体にため込んだ熱を上手く逃せなくて、足がふらつきはじめた。


 夕方になれば砂漠の旅が待っているのだから、早くなんとかしなければならない。だが、今、滋養剤を飲んでもミオの身体だと効くまで時間がかかる。


 宿に戻ると、ジョシュアから自由時間を貰った。


 水浴びをして身体の体温を下げれば、症状は幾らかましになる。身体を冷やしたいと言えば、ミオを気遣って別の案内人を雇うかもしれないと思って、こっそり出かけた。


 宿屋の中庭にある井戸に出向いたが、人が沢山いた。額の奴隷印は隠しているが一人で異国の人間のフリをして水浴びする勇気はない。仕方なく、そのまま部屋に戻るとジョシュアが紙幣をならべた寝台の上にミオを呼んだ。


「どうぞ。ミオさん」


 そう言って、札束を差し出してくる。


「ええっ?受け取れません」


「余った分は君のものだって、僕、言ったよね。素直にもらって」


 引きそうにない雰囲気に、ミオは紙幣を一枚掴んだ。それでも、奴隷には高額だ。


 これで欲しかったものも買える。思わず微笑むと、ジョシュアがミオの手の中の紙幣を取り上げ、紙幣の束をミオの傍にずらしてきた。


「じゃあ、僕がこっち。君はこっち」


「駄目ですって」

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