第30話

「ハグとは何ですか?」


「両手を広げてこちらにきて」と言いながら、ジョシュアがミオの前で膝立ちになった。


「そのまま、腕を僕の身体に回して」


「あの、触れてしまいますが?」


「触れて欲しいから、頼んでいるんだ」


 緊張しながらジョシュアの肩に手を滑らす。硬い骨の感触がした。


「もう少しこちらに。これでは肩を触っているだけでハグにはならない」


 ジョシュアの顔が、ミオの胸に当たった。


「もっと、腕に力を込めてほしいな」


 旅の旦那様の命令なのだからと自分に言い聞かせ、ぎゅうっとしがみつくと、小さな吐息が聞こえてきた。


 ジョシュアの手がミオの背中に周り、強い力が加えられる。密着にミオも吐息を漏らす。


 抱擁がこんなに気持ちがいいものだとは、知らなかった。


 ジョシュアが顔を上げた。視線を絡まされ、外せなくなる。


 ミオの身体に回った腕にさらに力が籠る。しかし、ひざまづいたままジョシュアが見上げてくるので、抱きしめられているというよりすがられている気分だ。


「もっと、求めてもいい?例えば口づけとか?」


「ご、御冗談を。ジョシュア様が汚れます」


「汚れるだなんて、いつも悲しい言い方をするね。僕は、全くそう思わない。ねえ、一瞬触れてくれるだけでもいいんだ」


 ジョシュアがサイティ越しにミオの背中や腰を撫ではじめ、ぞわぞわとした感覚が湧き上がる。


 甘美な疼きにミオは「ん……」と声を漏らす。すると「ミオさん」とジョシュアが甘い声でねだる。


 寝床の世話と言うのがジョシュアのからかいなら、これはきっと戯れだ。


 ミオは今まで生きてきた中で、一番の勇気を出して、かするような口づけをした。


 汚れているなんて、僕は、全くそう思わないと言ってくれたジョシュアの言葉が後押しした。


腰が引けてしまって、周りから見たらかなりのへっぴり腰で、さぞかし滑稽な姿だろう。


「ああ。ありがとう」


 感極まった声を上げて、ジョシュアが深い口づけを返してきた。一瞬、何が起こったのかわからなかった。口の中で柔らかなジョシュアの舌が、ミオの舌を追いかけまわす。


下半身が、滋養剤を含んでピークがきたときのようにムズムズする。

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