第27話

 旅の終わりを告げるのが悲しい。


 普段なら、旅の旦那様を怒らせることなく、行程を終わることができたと、ほっとするだけなのに。


 双眼鏡を覗いていたジョシュアは、上半身を起こした。コンパスを片手に地図を広げ、難しい顔をする。


「ミオさんは、地図の見方はわかる?現在地はここなんだけど、雨季のシーズンに砂漠キツネを見たのはどこだったか、覚えているかい?」


 ペンを渡され×印をつけるように言われた。突き出た半島の先端に幾つか×印をつける。


「では、乾季のシーズンは?」


 乾季のシーズンになると、砂漠キツネは半島の内陸部に移動する。思い出せる限り印をつけると、ジョシュアが難しい顔のまま地図を受け取る。


「このオアシスから近いのは、テーベの街?」


「よくご存知ですね。ええ。そこが、阿刺伯国の各都市に向かう中継地点になっているので、いつも賑やかです。「『白の人』一行はそちらで宿泊されるのかもしれないので、今はお祭り状態かもしれません」


「また、『白の人』か。まるで、一行と旅をしている気分になるね」


 不快そうに、ジョシュアが息を吐き出す。ミオは地面に手をつき、額をこすりつけた。


「申し訳ありません。もう『白の人』の話はいたしませんから」


「いいんだよ。ミオさんがそこまで気を使わなくても。阿刺伯国の民は、彼を欧羅巴から守ってくれる守り神みたいに崇めているけれど、実際の彼には、こっれぽちもそんな気持ちがないのだから、ちょっと嫌な気分になっただけさ」


「ジョシュア様は『白の人』とお知り合いですか?」


「知り合い?まあ、そんなところかな」


 今度は、ジョシュアは曖昧に笑った。そして、双眼鏡を首から外しケースにしまい始める。


「帰りのお支度をしましょうか?」


 ミオが言うと、ジョシュアは手の中の地図をじっと見つめる。

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