第25話

「ミオさんもおいで」


 水面に顔を出したジョシュアに誘われた。ジョシュアが脱ぎ捨てた夜着を拾っていたミオは、水際まで行って叫んだ。


「俺、泳げません」


「知っている。海で見事な溺れっぷりだった。だから、支えててあげる。ほら」


 水深が腰までのところまで戻ってきた美しい裸体の男は、ミオに手を伸ばしてくる。ジョシュアが立てた波で、ミオが着ていた寝間着が濡れた。


「あっ。濡れて……」


「どうせ洗うんだ。いいじゃないか。」


 一枚布の夜着をさっと脱がされ、足の付かないところまで連れて行かれて、ミオはジョシュアの腕にしがみついた。浜辺は、どんどん遠くなってく。ここで手を離されたら絶対におぼれ死んでしまう。


 首に手をぎゅっと回すと、苦し気な声が上がった。


「すいませんっ。で、でも、だって……」


 ジョシュアが、慌てるミオを見て笑う。


 ミオは、旅の旦那様と、ふざけ合う友達のような状況になっていることに慣れず、わざと視線を外した。


 オアシスの中央で泡が弾けるのを見て、「何でしょう、あれ」と指さす。


「オアシスの源みたいなものさ」とジョシュアが、ミオを片腕に抱いたまま、器用に水をかいて近づいていく。泡が、ポコポコと音を立てていた。


「オアシスが、どうやってできたのか知っている?」


「神様が、旅人に砂漠をなんとか渡れるように作ってくれたと聞いています」


 すると、ジョシュアが苦笑いを浮かべる。


「地質学的に言えば、他の場所よりも地盤が緩かったりもろかったりする場所から水が噴きあがっているんだよ」


「地下?この辺は一面砂漠ですよ?」


「表面はね。でも数キロ掘れば地下に水が流れている。その水を利用したのがカナート(地下用水路)。旅であちこち行っているなら、どこかで見たことはあるだろう?」


「ジョシュア様は、やっぱり博識ですねえ」


 ミオが感心すると、「まあ仕事だからね」とジョシュアが少し冷めた調子で言った。


「戻ろうか」と言って、今度は浜辺に向かって泳ぎ出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る