第22話
北斗星号とジョシュアを連れて歩いて行くと、星空旅行社の店先で店主が偉そうにふんぞり返る男に、ペコペコ頭を下げていた。
役人だ。
『白』を雇っている店は、役人のチェックが月一回入る。四年前、阿刺伯国が開国した直後から始まった制度だ。
「ほら、戻ってきました。元気に働いているでしょう?」
ジョシュアを連れて戻ってきたミオを見て、店主は大げさにこちらを指さす。役人は不承不承頷いて去って行った。
店主が、「ようこそ。旅の旦那様」と嘘くさい笑顔を浮かべ、ミオたちの方にやってきた。「暑い外では何ですから、どうぞこちらに」と店の中に案内する。
冷たい飲み物を店の奥で準備するミオの後ろに、店主が立った。
「その高そうなサイティ、一体、どうやって手に入れた?」
「お、お客様に……い、頂いて」
鞭で打たれた恐怖が身体にたっぷり残っていて、ミオの口は急に動かなくなる。
「旅に出る前から、随分気に入られたもんだな。お前も、本気でやりゃあできるじゃないか」
店主が、満足そうにジョシュアが座る席に戻っていく。ミオは遅れて席に飲み物を持って向かう。
さっそく、旅の申し込みが始まった。陽気に店主が話し始める。
「砂漠キツネは今の季節ですと、一泊二日だと難しいかもしれません。預り金を置いていっていただければ、大変お得な値段で、一ヶ月先まで旅を延長できますよ。
何?一ヶ月も旅なんてしない?でしたら、この子を手元に置いて置くだけでも役に立ちます」
ミオは、主人を無言で見つめた。一ヶ月の預り金を貰うのは七泊以上の長い旅の場合だ。
一泊二日の短期旅行では貰わない。
だが、店主はミオに向かって余計なことを言うなよとでもいうように眉をひくりと動かし、今度はジョシュアに囁く。
「旅の旦那様。案内人のミオは、こう見えてとても人気のある子です。なぜなら、何でできますから」
「何でも?」
ジョシュアは眉間に皺を寄せ聞き返し、店主は揉み手で「ええ。ええ」と厭らしく頷く。
相手にならないと、呆れたように首を振ったジョシュアは、「一泊二日の旅行代は幾らなんだい?」とミオに聞いてきた。
主人は、ジョシュアにしつこく言った。
「いいんですか?本当に?たったこれぐらいで、ミオを一ヶ月好き放題できるんですよ」
と十本の指をいやらしく動かす。そして、「ほら、ミオ。お前も旅の旦那様にお願いしろ」と肘でガンガンとミオをこずく。
「最低な雇い主だな」
荒いため息をついて、ジョシュアは一ヶ月分の預り金にあたる紙幣の束を店主に突きつけ、「行こう」とミオを促した。
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