第2話
ジョシュアは、旅の旦那様だ。
ミオは星空旅行社という小さな旅行社のラクダ使いで、十一才のころから働いて、もう四年になる。
今回は、砂漠キツネを見たいというジョシュアを、巣穴のある場所まで案内する途中だった。
一泊二日の短い日程だが、オアシスに天幕を張り星を見ながら眠れるというのがこの旅の売りだ。
夕方、町を出発し、太陽がとっぷり暮れる頃、オアシスに着いた。夜、眠るための天幕を張ろうとして、どうやら気を失ったらしかった。
ジョシュアはミオを介抱しつつ、作りかけだった天幕を完成させたのだろう。
旅の旦那様にとんでもないことをさせてしまった、と恐怖で震えていると、ジョシュアが空のグラスを天幕の床に置いた。
顔を近づけられ、ミオは思わずのけ反る。仰向けに倒れかけると、ジョシュアの手がさっと背中に回って、唇がゆっくりと近づいてくる。
何で、俺なんかにこんな行為を。
目を見開いて固まっていると、とうとうミオの唇にジョシュアのが重なった。
水を含んでいるせいか、ひんやりとした唇だった。
「ふぁ……んっ……」
あり得ない行為に混乱して、助けを求め脇腹をすがると「……ん」とジョシュアが鼻にかかった声を漏らす。
自分に触られて、気持ち良さげな声を漏らす人がこの世にいる。
その驚きが、頑なに閉じていた唇のガードを甘くする。濡れた舌先で舐めれ、舌がするり口内に入り込んできて、水を通す通路を作った。
ちょろちょろと注ぎこまれ、乾いていた身体が反応した。
心では恐れているのに、ジョシュアの脇腹を掴む手が勝手に移動し、もっともっととせがむように首に回る。
「身体がまだ熱い。もう少し冷やそう」
ジョシュアは、ミオを抱き上げそのまま天幕を出た。
ミオは、焦って腕の中で暴れた。
「下ろしてください。博識なジョシュア様ならご存知でしょう?俺は、この国ではとても忌まわしい存在なんです。腕に抱くなんてこと、しないでくださいっ。ジョシュア様が汚れますっ!!」
浅黒い肌と黒目黒髪の民族しかいないこの国で、真っ白な肌と白い髪を持つミオは容姿を恥じながら生きてきた。瞳も充血したように真っ赤で、目が合っただけで不吉だと石を投げられる。
両親がともに浅黒い肌であっても、何十万人に一人の割合で生まれるらしい。異形の姿をして産まれた者は、この国ではひとまとめに『白(シロ)』と呼ばれていた。
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