PVPゲームの外国人ハッカーが強すぎて詰んだ件

村田ミチヨシ

PVPLv上げで詰んだ

1 転生前

 うう……。

 頭が割れるように痛い。

 一体どうしたんだ?

 え、そんなバカな。

 確かに俺は寝落ちしたようだが、ここは一体どこだ?

 どこか見覚えのある風景だが、まさかゲームの中じゃないだろうな。

 そうだったら既に人生ハードモード過ぎるんだが。

 あの世界で生き抜くとか嘘だろ……。

 まあ、元の世界でも殆どやることがなかったし、大きな問題はないか。

 そうなると、結局色々大変そうだが……


       ◇


 17歳の九条信也は、毎日のように自室でオンラインゲームに熱中していた。

 彼は、いわゆる“ニート”というものだったが、そういう呼ばれ方をするのに抵抗はなかった。

 実際のところ、彼が学校に行かなくなる前は、成績優秀で周囲からも誉められていた。

 しかし、九条信也が中学、高校という過程で成長していくにつれ、周囲との温度差が目立つようになった。

 それは、本人が一番良く理解していたことだが、敢えて気にしないようにしていた。

 そんな彼が退屈凌ぎにプレイするようになったのが、オンラインゲームというものだった。

 既に、九条信也の周りの世界には、無数の国内外のオンラインゲームがあり、基本料金も無料となっていた。

 厳密には、プレイ後に課金を要求されるオンラインゲームも未だ数多く、九条信也は、常に“無課金”を貫いていた。

 彼がオンラインゲームを始めた頃は、当たり障りのない、「王道のファンタジーモノ」を選んでいた。

 レベルを上げ、仲間を集め、武器を強化する。

 それがオンラインゲームの日課であり、やがて、九条信也の生活となった。

 そして、彼は、幾つものオンラインゲームをプレイしていくうち、必然的に“引きこもり”となった。

 学校に友人はおらず、家族との会話もない。

 そうした現代人の典型とも呼ぶべき人間──それが九条信也だった。

 やがて、暗い自室に引きこもるうち、彼の生活は、オンラインゲームそのものとなっていった。

 レベルを上げ、仲間を集め、武器を強化する。

 その終わりのない単純作業には、次第に「義務」のようなものが芽生え始めた。

 オンラインゲームの中における、彼の目的は、只ひたすらに“強く”なること。

 世界中のゲーマーたちがそうであるように、ゲームの中の強さは“絶対”だった。

 強ければ、そこに仲間たちが集まり、富が増える。

 強敵であるモンスターたちも、楽に倒せる。

 そうした環境に取り憑かれ、九条信也は、次第に様々なオンラインゲームをやり尽くしていった。

 しかし、このゲームという世界は、所詮は人間の“創造物”に過ぎなかった。

 天才ゲーマー、プロ、課金勢たちにも太刀打ちできない状況や敵は、簡単に作り出すことができた。

 主にゲームの開発者たちは、若者や大人たちを、意図も簡単に操り、この世界を拡大させてきた。

 その大きな成功の影の産物が、九条信也のような「ネトゲ廃人」だった。

 そうなった人間は、簡単に社会復帰することはできなかった。

 つまり、例えば、ゲームの世界にでも入ることができれば、上手く人生を続けられたかも知れないのだった。

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