第25話 結局、ふりだしに戻る
飛来してくる火の塊をヴィヴィルマは瞬時に凍らせ、ディーツは片っ端から切り捨てていく。炎や氷もなんでも瞬時に斬れるところが『サイクル・リッパー』のいいところだ。あの王国には憎悪しかないが、これをくれたことだけは感謝してもいい。
懸賞金をかけられているが、返すつもりはない。
粗方片づけ終わったところで、先ほどダモメに追われていた三人が戻ってきた。
「いやぁ、君たち凄いね」
「嬢ちゃんたち、何者だ。ハンターか?」
「作戦に巻き込んだこと、謝罪しなくていいの?」
最初に話しかけてきたのは軽薄そうな優男だった。次に野太い声で口を開いたのは虎の頭をした獣人だ。最後に背の高いスレンダーな女が困惑げに二人を見つめた。
「嬢ちゃんじゃねぇ。俺は男だ。それより、作戦って俺たち邪魔したか」
「なんだ、本当に男か、残念」
優男を軽く睨むと、肩を竦める。
「むしろ助かった。こちらの火力じゃ仕留めきれないとわかってて、足止めのつもりだったんだ。それでも止まったかどうかは微妙なところだから」
「止まったところで俺たちが切り込む手筈だったが、岩の巨体は並みの刃じゃ通らねぇ。お前の剣の切れ味はすさまじいな」
「炎を瞬時に切り捨てられる技量もすごいわ。攻撃を中止できなかったからどうしようかと思ったけれど、傷一つないものね」
最後の炎の攻撃も彼らの作戦の一部だったようだ。
確かに、あれだけの火力では転がる巨体は止められないだろう。
リートンの爆裂魔法があれば瞬時に消し炭にできるだろうが。
「少しは役に立ったんならよかったよ。ところで、ハンターってなんだ?」
「ハンターを知らない?」
「嬢ちゃんはどんな田舎から来たんだ?」
「俺は男だって言ってんだろ!」
「おお、すまねぇ。つい、な。ハンターは魔物や薬草を狩ってる連中だ。大陸中にいるはずだが、見かけたことないか?」
「ヴィヴィルマは知っているか?」
「我は知らないな」
そうだろうとは思ったが、一応聞いてみただけだ。
「兄ちゃんは魔族だよな、そっちも凄腕だ。王都のギルドに登録すればすぐに稼げるぞ」
虎の言葉にディーツは釘付けになる。
金が稼げるなら何だってやる所存だ。
「今すぐ金が欲しいんだ、登録するにはどうすればいい?」
「そりゃあハンターギルドで登録料を払えばすぐに発行してくれるよ」
「登録料ってどれくらいだ?」
「ピンキリだが、確か10万ガルくらいか?」
「相場はそれくらいなはずよ」
こちらの大陸の通貨はイリス通貨で『ガル』が単位だ。10万ガルがどれほどの価値があるのかは全くわからないが。食材を仕入れた際の支払いは、ミューが持っていた魔石で支払っているからだ。
魔石は魔力の込められた石だ。宝石よりも価値があり、魔物の体の中でゆっくりと形成されるため、長命な種ほど大きな石を持っている。
魔石狙いで魔物を狩る命知らずもいるが、大きな魔石を持つ魔物は滅多に人里に現れないため、なかなか見つけられない。必然的に小指の先ほどの魔石が市場に流通する。これが小銭がわりになるのだ。
魔石は砕いて薬にしたり、魔道具や魔術の機動力にもなるため、非常に重宝されている。
「ダモメの討伐金が少しでるからそれを足しにすればいいんじゃないかしら」
「んなもの、ほんの僅かだろ」
「まあこの人数だものね」
「ダモメから魔石は取れないのか?」
「巨体のわりには豆粒ほどの大きさの魔石だ。体の中から探す方が苦労するくらいだね。やらないほうがましさ」
優男の説明を聞きながら、がっかりする。ディーツはずいぶんとつまらないものを切ってしまったようだった。
「大きな魔石が取れるならさっさとハンターギルドに依頼して退治してもらってる。俺たち守備隊が出なくても済んだんだ」
「守備隊?」
「王都を守ってる警備隊だな。一応、国家所属だぞ。偉いんだ」
「単なる雑用係じゃねぇか。ちいせぇ仕事ばっかでよ」
「文句言わない。誇り高いじゃないのよ。とにかく魔物の処理が残ってるから仕事に戻りましょう。後で守備隊の詰め所に来てくれれば討伐金を渡せるわ。隊長に事情を説明しておくから。あなたもそんな格好で気持ち悪いでしょ。宿で綺麗にしてから来ればいいわ」
ダモメの体液で汚れたディーツを見やって、女は馬の向きを変えて駆け出した。
「また後で」
「ちゃんと来るんだぞ、嬢ちゃん!」
「俺は男だって言ってるだろ」
優男と虎が女の後に続いていなくなる。その背を見送りながら、ヴィヴィルマに小さく話しかけた。
「ほらなんとかなっただろ。王都に入って守備隊の詰め所にいけばいいだけだ」
「だからどうやって王都に入る?」
ディーツは慌てて三人を追いかけた。
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