第三十八話 ひと月に一度の報告

 かなたたちの初任務が終わり、地上に出た時にはもう日が暮れかかっていた。

 俺—鬼灯紅蓮はそのまま、かなたたちを帰路につかせた。

 そして、月に一度の理事長への報告をするため、理事長室の前まで来ていた。 

 コンコンといつも通り扉を叩く。

 「鬼灯紅蓮です。報告書を提出しに参りました。」

 「どうぞ。」

 今の声、理事長の声ではなかった。というか、白銀さんの声だったよくな…。

 俺は「失礼します。」と言いつつ扉を開けた。

 そこにはソファーの上に寝そべっている理事長の背中を踏んでいる白銀さんがいた。

 これは、どういう状況だ?頭の処理が追いつかない。

 えっと、多分そういうプレイ中なのだろう。そうに違いない。

 俺は理事長には目を向けず、報告書を机の上に置きそそくさに扉に足を向けた。

 「ちょ、ちょっと待って紅蓮くん。誤解だから!話せばわかるから!だから足を止めてくれ!」

 俺は気にせず扉の取っ手に手をかける。

 『扉よ開くな。』

 ガチャガチャと何度か開けようとしてみたがあかない。

 この人、術式使ったな。

 はあぁぁぁぁ。この人、こういう時の術式の展開速度が無駄に速い。

 「で、それはどんなプレイですか?理事長。」

 「嫌だなー、そんなプレイだなんて。それじゃあ、まるで私が変態みたいじゃないか。」

 「いや、会話中でも踏まれ続けるのはどこからどうみても変態ですよ。」

 「言われてみたらそうだね。白銀くんもういいよ。ありがとう、少し楽になったよ。」

 「わかりました。」

 白銀さんはゆっくり背中から降り、素早く靴を履き理事長の後ろへとまわる。

 「理事長、仕事上指示には従いますが、こういうことは人がいない時に頼んでください。私にも羞恥心というものはあるんですから。」

 そういった時の白銀さんの耳は赤くなっていた。

 やっぱり、恥ずかしかったのか…。

 「ごめんね。君の足に踏まれる感覚が最高でね。」

 次の瞬間、白銀さんが持っていたファイルが理事長の頭に衝撃を与えた。

 「悪ふざけがすぎます。その言い方だと誤解されます。」

 理事長はいたた…と頭をさする。

 「それでかなたくんたちの調子はどうだい?」

 本当に、この人のスイッチの切り替えの速さも異常だな。もう慣れたが。

 「はい。正直、私からみた二人は異常そのものです。半年で固有陰陽術式を不完全とはいえ、完成させています。それに、かなたの体術は半年で身につく練度ではありません。」

 かなたたちが陰陽師になったのは約半年前だ。それまでは普通の高校生活を送っていた一般人。

 固有陰陽術式については「才能」でギリギリいえる。それでも異常なのは変わらんが。

 だが、かなたのは「才能」では片付けられない。

 なに一つ武道を知らないものが身につけるものではなかった。

 あそこまでの剣術、陰陽師にもそういない。

 「報告書にもある通り、かなたは今日初めて刀を握ったと言っていました。つまりそれは—」

 「かなたくんのもう一つの職業が関係しているってことだね。」

 「はい。あまりこういう事を言うのは気が引けるのですが、かなたは私たちに何か隠している気がします。」 

 かなたは俺たちを騙せる性格をしていない。それは半年関わってきたからわかる。

 だが、『共鳴者』についてはまだ分からないことが多すぎる。

 正直、不安が残る。職業によっては暴走の可能性がある。

 『共鳴者』が暴走しないと言い切れない以上ずっと気にし続けなければならない。

 「紅蓮くんの言いたいことはわかった。『共鳴者』については個人的にかなたくんに聞いておくよ。言いたいことはあると思うけど今回は

甘んじてくれ。」

 「わかりました。あ、それともう一つ報告しておきたいことがありまして。報告書には書くほどのものではなかったので口頭で。」

 俺はかなたが鬼界で感じた視線について話した。

 

 「かなたくんだけ感じたっていうのは妙だな。そうだね……うん。紅蓮くんにはこれを渡しておこう。」

 そういって渡されたのは黄色いビー玉だった。 

 「これは?」

 「それは二つで一つの陰陽具『対の知らせ』っていってね、片方に明力を流せばどんな妨害があっても、もう片方に知らせがいくっていうものだよ。」

 聞いたことはあったが実物を見るのは初めてだ。インカムがあるから、あまり意味をなさなくなり使われ無くなったもののはずだ。

 なぜそれを俺に?

 「最近、一級の陰陽師部隊がいくつも全滅している。しかも、通信が急に消失する。これは妨害されている可能性が大いにある。だから、一応緊急用で持っといて欲しい。」

 「了解しました。」

 一級の部隊が全滅するのは珍しいことだ。それは特級クラスの鬼が出た事を意味している。

 特級クラスの鬼はここ五十年は観測すらされていなかった。

 「かなたくんたちが危機になったら、すぐにそれを使ってね。といっても、君たちの任務だとそこまで深い場所まで行かないと思うけどね。」

 「わかりました、任務の際は持っておきます。」

 かなたが感じた視線の主も気になるが、それより『共鳴者』について調べる必要がありそうだな。資料室に行けば何かわかるかもしれない。

 「報告も終わった事ですし、私はもう帰ります。何かありましたら連絡をください。」

 「ああ。これからも頼んだよ。」

 俺は立ち上がり、理事長室を出た。

 とりあえず、資料室のものを物色しにいくか。

 

 

 

 

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