第三十四話 初任務前の準備

 俺—出雲かなたはいつものように桜と学校に向かっていた。

 カマキリの一件からもう半月が経とうとしていた。あれ以来、俺たちには何も起こっていない。

 あの一件の後、紅蓮先生からお守りをもらったけど、これのおかげだったりして。

 桜も今は元気になった。

 俺が医務室に行ったときには目を覚ましていたし、その次の日には普段と変わらない様子だった。

 本当によかった。理事長から倒れたって聞いた時は気が気じゃなかった。

 これからは桜に無茶させないようにしないと。

 俺もあの後、紅蓮先生に説教された。あの時は死ぬかと思ったよ…。

 「今日は鬼界での初任務だね!やっと実践できるね!」

 「これで俺たちも陰陽師として認めてもらえるのかな?」 

 「絶対そうだよ!」

 桜はうんうんと顔を縦に振りながらいう。

 そうだといいんだけどな。

 開発途中とはいえ、固有陰陽術式も形になってきているし、少しは戦えるようになってるといいな。

 俺たちはそんな話をしながら学校に向かった。

 

 「今日は前から伝えていた通り、鬼界にてお前たちの初任務を行う。それにあたって支給するものがある。」

 いつものように紅蓮先生が前に立って説明をしてくれる。

 いつもと違うのは授業はなくなり、午前中から任務に向かうということ。

 紅蓮先生からはアタッシュケースとお札、刻印が施された木剣ぼっけんが渡される。

 アタッシュケースの中には前にも着た狩衣、お札用のホルダーが入っていた。  

 この木剣、どこかでみたことあるような…。

 どこだったかな?

 「先生!この木剣で戦うんですか?」

 紅蓮先生は『その質問待ってました‼︎』みたいな顔をすると説明を始めた。

 「この木剣は札を使って陰陽具にするんだ。見本を見せるから、それにならってやってみてくれ。」

 紅蓮先生は足のホルダーからお札を一枚取り、右手で持った木剣の上にかざす。

 『悪穢祓刃あくわいふつとう 救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 紅蓮先生の詠唱が完了するとお札は木剣に吸い取られる。

 次の瞬間、木剣がふたまわりくらい大きくなり、片手剣へと変化する。

 これ、仲谷クウガが使っていたやつだ。一応共通陰陽術式なんだな。

 「さあ、二人ともやってみてくれ。感覚的には明装みょうそうと一緒だ。」

 「「はい!」」

 明装と一緒なら、お札に明力を流すイメージで。俺の場合は今のところ一個しか明装をできてないけど…。

 それに桜はもう3つまでできるようになったのに…。

 『『悪穢祓刃あくわいふつとう 救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう』』

 さっきと同じようにお札が木剣に吸い取られ、片手剣になる。

 見た目の割に重たくはないな。だから、仲谷クウガもあんなに大きくなった剣でも切れたのか。

 「二人ともできているな。鬼界に入る前にはこの状態にしておけ。鬼界だといつ鬼が襲ってくるかわからないからな。それと出来るなら明装もしておけ。狩衣は丈夫だが万能じゃない。一定以上の攻撃をされると流石に守りきれない。」

 防具にも限度はある。とりあえず、攻撃を出来るだけ受けないようにしないと。

 「それじゃあ、術式を解いたら移動を始めるぞ。エレベーターに乗って地下10階へ行く。」

 ち、地下10階⁉︎この建物そこまでしたがあるのか!

 前の研究室は地下3階だったのに、それ以上にしたがあったなんて。

 「先生、地下10階って何があるんですか?」

 桜は疑問に思ったのか質問する。もっともな質問だな。

 俺も気になっていたし。

 「地下10階には陰陽連が管理している鬼界への門がある。そこがあるからこそ、お札で場所を問わず門を開ける。」

 簡単にいうと鬼界への門の根幹みたいなものかな?

 今日はそこから鬼界へ行くのか。

 それにしても、1、2、4〜8階まで何があるのか気になるな。

 俺と桜は術式を解き、先生と共に移動を始めた。

 

 地下10階についきいきなり大きな輪っかが目に入る。

 確か、神社などにあるやつだったはず…。

 名前は『』だっけ?

 でも、神社にあるものとは大分異なっていた。

 まずは大きさが違い過ぎる。余裕で貨物船が通りそう。

 そして輪になった部分。光の膜が張っていた。まるで、前に通った鬼界とこちら側をつなぐ鳥居のように。

 茅の輪の近くには槍の様なものを持った人が数人立っている。

 陰陽連が管理してるって聞いて、おおきんだろうなぁとは思ってだけど、ここまで大きいと軽く引くな。

 紅蓮先生は門の近くの人に話に行ったし、俺たちはここで待機するしかないな。

 「ねぇねぇかなた、こんなに大きいと明力保つのかな?」

 「さあ?なんかこう、ぐわってやってるんじゃないの?」

 「擬音語多すぎて分からないよ。でも、なんとなく言いたいことはわかったよ。」

 桜に笑われながら返される。

 うん。こんな時に言うのもなんだけど、かわいい。

 俺はも平然を装って笑ってかえす。その時、紅蓮先生がこちらに小走りで帰ってくる。

 話が通ったみたいだった。

 「茅の輪を潜る前に忠告をしておく。ここから先は死と隣り合わせだ。決して気を許すなよ。」

 「「了解。」」

 やっとここまできた。まだスタートラインに立っただけかもしれないけど。

 陰陽師として絶対に任務をこなしてやる。

 


 

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