第二十九話 ラーメン屋
「や、やっと…終わったよ…。」
「そ…う、だな…。」
俺—出雲かなたと桜は少しやつれていた。
原因は—
「あぁ、知識が満たされた!二人のお陰で新しい研究が出来るよ!」
と言いながらPadを指で操作している彗嗎さんである。
俺たちは戦闘スタイルを彗嗎さんに見てもらった後、強制的に研究に付き合わされた。
付き合わされてからもう10時間近くがたち、時計は6時半を指していた。
昼ごはんのための休憩を抜けば、休みがなかった。
まあ、やること全部面白くて時間を忘れられたけど、やっぱり何時間も続けて行うとやっぱり限界ってくるんだな。
桜を見るといつもの元気が嘘のように鳴りを潜めている。
桜も相当疲れたみたいだな。
そんな時、壊れた研究所の扉から紅蓮先生が入ってくる。
「二人ともお疲れ様。おい!彗!二人とも返してもらうぞ!」
先生は彗嗎さんに大声でそういうが、彗嗎さんは見向きもしない。
「やっぱり聞こえてないか。二人とも荷物は先に家に届けておいたからな。とりあえず地上に出よう。」
先生は俺たちを立たせて歩き始めた。
「先生、なぜ研究が終わったてわかったんですか?」
桜が廊下を歩きながら聞く。
それは俺も気になっていた。ピッタリすぎて少し怖いくらいだったし。
「それはな、彗のやつが6時半くらいに終わるから二人を迎えにきて欲しいって連絡がきてな。」
なるほど。俺たちの研究結果をPadに入れている合間に連絡をしていたのか。
彗嗎さん、ああ見えて抜け目ないね。
「とりあえず、今日は3人で夕飯を食べに行こう。彗のことは正直悪かったと思っている。それの罪滅ぼしだ。家には連絡を入れておいたから心配しなくていいぞ。」
と先生は申し訳なさそうに話す。
先生なら彗嗎さんを止めれたのかな?止めれるのなら止めて欲しかったなぁ…。
あんなに疲れたのは久々だったよ…。
地上に出た頃にはやっぱり周りは暗くなっていた。
正門まで歩き、そのまま足を商店街に向けた。
「二人とも、近くにうまいラーメン屋があるんだ。そこでどうだ?もしラーメンが苦手なら別の店に行くが…。」
「私は大丈夫です。」
「僕も大丈夫です。」
「なら決まりだな。うまいから覚悟しとけよ。」
先生、本当に嬉しそうだな。
そんなにラーメンが好きなのかな?
また、いつか美味しいラーメンの店教えてもらえるかな。
「いらっしゃいませ。あ!紅蓮さんお久しぶりです!さぁ、席へどうぞ。」
着いたラーメン屋はカウンター席しかない小さな店だった。
俺たちはカウンターに座りメニューを見る。
それにしても、先生はここの常連なのかな?
店の人にも覚えられてたし。
とりあえず、ご飯だ!
どんなのがあるんだ?
醤油ラーメン、醤油豚骨の二種類⁉︎醤油に力を入れすぎじゃない⁉︎
「ここは二種類しかないが、ハズレはない。両方ともうまいから食いたい方を選べ。」
「わかりました。うーん、私は醤油でいいかな〜。かなたは?」
「俺も醤油でいいかな。」
「わかった。大将、醤油3つ。」
「あいよ。」
なんかアニメでしか見たことないやりとりだな。
俺たちはラーメンが出来るまで先生と彗嗎さんの話を聞かせてもらった。
彗嗎さんは昔から研究熱心であることや、陰陽具(札や武器など)を作っていること。
「本当に先生たちは仲がいいんですね。」
桜は嬉しそうにいう。
桜はこういう親友同士の話は昔から好きだったな。
「お待ちどうさん。醤油ラーメン3つね。」
話がひと段落ついた頃にラーメンがくる。
大将?はタイミング良すぎないかな?
話に聞き耳立ててたのかな?
「よし、二人とも食べるぞ!いただきます!」
「「いただきます!」」
俺たちは箸を割り醤油ラーメンを食べ始めた。
「先生ご馳走様でした!本当においしかったです。」
「本当に美味しかったです。ご馳走様でした。」
「ああ。また一緒に行こうな。」
本当においしかったな。また、行きたいな。
康介がこっちに来ることがあったら一緒に行きたいな。
「とりあえず、お前たちを家まで送っていってやる。」
そういって先生は俺たちについてきてくれた。
帰り道にある街灯が届かない裏路地。
俺たちはそこから声が聞こえ、目をやるとそこには倒れ込む男性らしき人影があった。
桜はその男性に駆け寄り「大丈夫ですか⁉︎」と声をかける。
男性が桜の差し出した手を握った瞬間。
「桜!そいつから離れろ!」
先生の怒号が響く。
だが遅かった。
桜の周りが赤黒い空間になっていく。
刹那—俺と先生は明力操作で足を早くし、俺は男性の腕に目一杯の打撃を加える。
先生は桜と男性の手が離れたことを確認すると桜を赤黒い空間から放り投げる。
「先生、かなた!」
「桜!戻ってくるな!すぐに理事長のところに行け!」
「俺は先生がいるから大丈夫だ!だから、先生の指示に従ってくれ!」
そう言い終わる時には、赤黒い空間が先生と俺を包み込んでいた。
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