僕から君への手紙

餅の米

僕から君への手紙

夕梨花へ


元気でやって居ますか、僕は元気とは程遠いですが裕太のお陰で立ち直れました。


君が居ないのは寂しいですが裕太が居るのが救いです。


お盆にはまた裕太とお婆ちゃんの家に行きますね。


君と離れてから昔を思い出す事が増えました。


出会いは高校二年生の寒い冬の事でしたね。


寒い風で悴んだ手を温める、バスの時刻表は田舎特有の2時間に一本、次に来るのは1時間後だった。


「あれれー?君も乗り遅れちゃったのかなー?」


聞こえて来る少女の声、目の前には黒髪の綺麗な美少女が立っていた。


「あ、はい……まぁ」


大人っぽい雰囲気に思わず敬語を使う、すると少女は面白そうに笑った。


「そっかー、じゃあお姉さんが面白いお話ししてあげるね!」


満面の笑みでそう告げる、不思議な人だった。


バスが来るまでの1時間、話しは覚えていないがあっという間に時間は過ぎ、やがてバスは来る、すると少女は何かを思い出したかの様に手を叩いた。


「あ!そう言えば学校に携帯忘れちゃったんだ!じゃあね少年!」


そう言い残し少女はその場を離れて行った。


僕は彼女に一目惚れしていた。


その後、何度もバス停で彼女と一緒になったが彼女はバスに乗る事は無かった。


そして冬休みに入る前日、少女が悲しげな表情で呟いた。


「明日から冬休みかー、暫く会えなくなるね」


「そう……ですね」


彼女に同調し頷く、だが今日で最後な訳もない……そう思い他愛も無い話しをしてバスを待っていた。


この日もバスは来る、そして少女はバスに乗る事無く僕を見送る、また会える……そう思い手を振るが少女の瞳には涙が浮かんでいた。


この日を境に少女はバス停に来なくなった。


その後、あの日の後悔を胸に就職し、社会人となった。


だが社会人2年目、先輩に連れて行かれた合コンで運命の再会を果たした。


忘れるはずも無い、あの時の少女だった。


そして合コンをキッカケに僕と少女は自然と付き合った。


こんな僕を好きになってくれた理由は単純だった。


顔が本当にタイプ。


ただそれだけだった。


そしてその後子供を授かり、裕太が生まれた。


だけどその5年後、僕と君は離れ離れになった。


まともに告白もしないまま。


手紙を書く手が震え、涙が紙を濡らす。


この手紙がもし……もし、君に届くのなら、愛してると……伝えさせてください。


雪人より


「あれ、この手紙誰からだろう?」


蝉の声が響く民家のポストに投函された一枚の手紙、其処には『愛してる』の一文字だけが記されていた。

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僕から君への手紙 餅の米 @mochi_nokome

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