第130話 冬の大会➄

3回戦終了から1週間が過ぎた。

日が経つのは早いが明日は地区予選決勝だ。

この1週間は女子バスメンバも協力してくれて練習を行いやれるだけのことはやったつもりだ。

だから体を休めるためにも今は寝なきゃ駄目なのに珍しく緊張しているのか中々眼が冴えて眠れない。

夏の大会でも森下とは決勝戦を争ったけどあの時はこんなに緊張しなかったのにな。やっぱり森下と何戦か試合をして強さを実感したからなのか?

それとも、あれだけ練習をしていた楓達が僅差とはいえ勝てなかったからなのか?

『まいったな。こんなの初めてだ』


1人愚痴りつつ喉が渇いたので、ベッドを出てキッチンで水を飲んだ。

冷たい水が喉を通るのは気持ちが良い。

何だか眠気なんてすっ飛んで・・・・駄目だろそれじゃ。寝るんだよ俺。

『はぁ・・・』

溜息をつきながらソファに座り明日の試合のことを考える。

笹原、藤原、横田。

勿論他の選手も強敵ではあるけど森下のキーマンはこの3人だ。

視野が広くポジション取りや正確なパスを出せるPGの笹原。

ドリブルの突破力、シュート成功率どれも高レベルな横田。

そして、波はあるけどスピードとシュートセンスはダントツの藤原。

俺や福島、裕也がしっかり仕事をすれば問題ないわけだけど・・・

簡単な仕事ではない。

そんなことを思い1人悩んでいるとスマホにメールが届いた。


[ピン]

こんな時間にメール?楓?

[ケンちゃん寝ちゃってた?]

[いや起きてるよ。何だか眠れなくて]

[そっか。何となくそんな気がしたんだ。やっぱり緊張する?]

[だな。珍しく緊張してるよ]

[うん。でも明日試合なんだから寝なくちゃだめだよ。ケンちゃん達ならきっと勝てるから大丈夫だよ。]

[あぁ ありがとな心配してくれて]

[うん。おやすみケンちゃん]

[おやすみ]


楓を心配させちゃったかな。

何てことの無いやり取りだったけどでも少し気持ちが落ち着いた気はする。

早く寝なきゃな。


----------------

「ケンちゃん昨日は寝れた?」

「あぁお陰様であの後すぐ寝れたよ」

「ほんと!良かった」


楓のメールのおかげか、あの後は気持ちよく眠れた。

そしていつもの様に軽くランニングをした後、朝食もしっかり食べた。

今は、駅前で部のみんなと待ち合わせし決勝戦が行われる市民体育館に向かっているところだ。

今日は女子バスメンバも応援に来てくれるので、楓や村田さん達も一緒に移動だ。


立場的には前回の地区予選では俺たちが勝っているわけだから、迎え撃つ立場に居るわけだけど正直余裕はない。

前回もギリギリの勝負だったし1年含め今回も総力戦だ。


体育館に到着しユニフォームに着替えアップを開始。

今日は練習試合の時と違ってお互い敵同士。藤原達との会話も無い。

森下の選手も真剣な表情でシュートやパスの練習・確認をしている。

俺達も作戦の最終確認やセットプレイの再確認をする。

そして、試合開始直前となり珍しく福島がみんなに声を掛けた。


「みんな聞け! 練習試合の結果でもわかる通り今日の相手は強い。

 個々のレベルも高いし選手層も厚い。夏は勝てたが今回は勝てる保証はない。

 ただ、夏の大会以降全国大会での雪辱は果たすため俺たちも練習してきた。

 今日はその成果を出せるよう、皆が自分を見ていると思って戦ってくれ!」

「「オォーー!!」」


皆がそれに答える。

こういうのも部活っぽくて悪くないよな。


今日のスタメンはセンターに高田を置いて俺と裕也、福島それに吉見の布陣だ。

コーチ曰く交代させるから倒れるまで走れとの事だ・・・

各校ポジションに着きマークする相手を確認したところで試合開始。


ジャンプボールは高田が制したが、落下位置に素早く走りこんだ藤原がボールをタップし笹原にパス。

離れた位置でボールを受けた笹原は、そのままドリブルで進み吉見と福島を引きつけつつフェイントで裕也をかわした横田にパスを送った。

高田と俺が横田のシュートコースを塞ぐ形でフォローに入るが、これはシュートと見せかけたフェイント。

横田はゴール下に走りこんだ藤原にパスを送った。

そして、藤原がそのままレイアップでゴールを決め先制点を奪った。

森下の観客席から歓声が上がる。


「和君ナイスシュート!!」

「保カッコいいよ~」


前の方では女子バスメンバと藤原の彼女の森田さんも手を振ってる。

・・・女子もこの後で決勝戦なんだよな。

すると対抗するように川野辺側の客席から声が聞こえた。


「ドンマイ!まだ始まったばかりだよ!!」

「太一ファイト!!」

「裕也これからだよ!」


楓と村田さん、浜野さんの応援も負けてない。

それに柚木さんや大崎さんも応援に来てくれてる。

頑張らなきゃな。


「にしても藤原はやっぱり厄介だな」

「ああ、動きが不規則だしスピードが速い」

「だな。あいつが動くことで笹原と横田のシュートやパスも活きてくるからな」

「田辺。ボックス2でお前は藤原についてくれ。俺は笹原につく。

 清水は田辺か俺がボールを取ったらカウンターを狙ってくれ」

「「了解!」」


吉見からのリスタートでパスを受けた福島は、笹原を牽制しつつフェイントを掛け裕也にパスを送る。

ドリブルで森下ゴールに近づく裕也だったが、横田にライン際に追い詰められた様に見せかけノールックで背後に走りこむ吉見にパス。

吉見は3ポイントを放ち3点をゲット。


「優くん素敵!!」


大崎さんテンション上がってるな。

でも確かに綺麗なシュートだった。


その後も俺や裕也がディフェンスを切り崩し外から吉見と高田がシュートを放つ形で攻め込んだが、森下も藤原の動きを活かし素早い連携で川野辺を翻弄し点差を広げていった。

点の取り合いとなる形で試合は進んだが、第2クォーター後半、藤原の動きに慣れてきた俺は徐々に藤原の動きを封じ込めていった。

そして、


「くっ 田辺!」

「裕也!」


藤原から森下の攻撃の起点となる笹原へのパスボールをカットした俺は裕也にパスを送りカウンターで得点をゲットした。

一応福島の作戦通りではあるけど、やはり簡単な仕事じゃないよな・・・


*****************************

長めになってしまったので続きます(4/18更新予定)


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