第58話 夢
6月のとある土曜日。
県大会予選が近い今日は部活の練習日だ。
「福島!もっと周りを見ろ! 由良がフリーだぞ」
「はい!」
予選が近いということもあり、いつもの基礎トレーニングの後は試合形式での練習を主体に行っていた。
10分1セット。1年から3年で構成された複数チームで対戦を行っているわけだけど、中盤をコントロールすることになる福島と清水は、持久力強化の意味もかねてほぼ休みなしで連続出場中。
既に4セット目を越えて、2人とも疲労により運動量、判断力もかなり落ちてきているが、厳しいコーチの激が飛んでいる。
「田辺!」
福島からの鋭いパス。ボールがゴール近くに向かう。
俺は懸命に走りながらボールに向けジャンプしボールを下から押し上げるレイアップの様な形でゴールを決めた。
「田辺 ナイスシュート!福島も今のパスは良かったぞ。パスを送る選手の周りには当然マークがつく。パスは相手の運動量や能力を考慮しギリギリの位置に送れ」
「はい!」
「よし。福島と清水は一旦下がれ。次は田辺と長谷部を固定メンバで行く!」
「「はい!!」」
既に疲れまくってるんですが・・・
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練習は昼休憩を挟み夕方近くまで続いた。
そして、今は練習終わりの帰り道。
校門を出て駅前へ向かう道。今日は珍しく清水や長谷部たちと歩いている。
「はぁ~ 吐きそ」
と清水。
「確かに今日は俺も疲れたな・・・」
「今日は太一と清水君は集中してしごかれてたよね」
「うん。裕也倒れちゃわないか心配だったもん」
と村田さんに浜野さん。確かに今日は二人の特訓がメインだったな。
「今度の大会は福島と清水の中盤勝負に賭けてるってコーチも言ってたしそれだけ二人に期待してるんだろな」
「まぁ期待してもらってるのはわかるけど、久々にバテたよ」
と長谷部と福島。
「流石にこのペースを毎回だとシンドイけど、これで勝てるならってとこだな」
「ま 確かにそうだな」
「あっ俺ら今日はこっちだ。じゃまたな!」
「ばい ば~い」
と駅の方に向かう清水と浜野さん。
今日は浜野さんの家にお呼ばれしているらしくバスに乗るらしい。
相変わらず仲が良いよな。というか浜野さんの親も公認なんだな。
同じく買い物に行くという村田さんと福島とも別れ、俺は長谷部と実家の喫茶店へ。ちなみに楓は、恩田先輩との用事でまだ学校。終わり次第連絡もらうことになってる。
「いらっしゃいませ~」
「おっ湯川さん。頑張ってるね」
「なんだぁ~。誠君に田辺君か。二人とも部活お疲れ」
土曜日ということで湯川さんはバイト中だ。
「じゃあ田辺、親父呼んでくるから少し待っててくれ」
「あぁ頼む」
実は、長谷部に良いバイトがないか相談したら"うちでどうだ?"って誘われたんだよね。ここなら家からも近いし雇ってもらえるなら大助かりだ。
「よく来たね 田辺君」
「今日はよろしくお願いします」
バイトって実は初めてなので少し緊張。
でもここなら知らないところでもないから少しは気が楽だ。
「あんまり固くならなくていいよ。田辺君なら採用でOKなんだけど、とりあえず、色々話しは聞いておく必要はあるからね」
ということで、勤務可能な時間や曜日、時給、仕事内容などなど実務的な話を30分ほどした。基本部活がない火曜と木曜、それから当面は土日どちらかの勤務ということで決まった。
遅い時間の勤務の時は、まかないで夕飯付きとの事で結構条件も良い。
「じゃ具体的な仕事内容は誠から聞いといてくれ。明日からよろしく頼む。制服は誠と同じサイズで大丈夫そうだから明日来るまでに用意しておくよ」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「いやいや。最近は中々若いバイトが集まらないからむしろ助かるよ」
ということで、明日からバイトすることが決まった。
用事は済んだので、客推してコーヒーを頼みくつろいでいると楓から
『終わったから今から向かうねぇ♡』
とメッセージが届いた。意外と用事終わるの早かったな。
俺はコーヒーを一気に飲み家に戻った。
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程なくして楓が来た。急いできたのか少し息を切らしてる。
慌てなくても大丈夫なのに。
「ごめんね。私から"帰り寄っていい"とか言っといて遅くなっちゃって」
「大丈夫だよ。そんなに待ってないし。何か急ぎの用事だったの?」
「うん面談」
「面談?」
「うん。この間は綾だったんだけど、三上コーチと恩田先輩が部員の面談やってるんだよ。色々と相談もできるし私は助かってるかな」
「へぇ 部員のフォローとかしっかりやってるんだね」
「うん。うちのコーチ体育の教員目指してるからね。メンタルヘルスとか凄くよく考えてくれてるよ」
メンタルヘルスか。最近こういうの重要だよな。
「私ね、将来学校の先生になりたいんだ♪だから三上コーチにはちょっと憧れてるんだよ」
「・・・学校の先生か。三上コーチは体育の教員目指してるんだよな?」
「うん。教え方も丁寧だし、いい先生になるんだろうなぁ」
おまけに美人で優しいから教員になったら男子生徒には大人気だろうなぁ
「そうだな。楓も体育教師目指してるのか?」
「そこは考え中。体を動かすのは好きだしね。あ、でも他の教科の先生でもバスケ部のコーチか顧問はやりたいな♪」
楓も先生になったら人気出そうだけど、何だか少し妬けるな・・・
にしても。。。
「ケンちゃんは何か夢とかなりたい職業とかあるの?」
「う~ん。被るとは思わなかったけど、実は俺も教師になりたいんだよな」
「え!そうなの」
「あぁ。俺って転校が多かっただろ。特にいじめとかは受けてないけど、やっぱり中々クラスに馴染めなかったりとかいうこともあったんだ。
でも親身に世話してくれた先生もいて凄く助かったし感謝した。でな、子供心に何というか先生ってカッコいいなとか当時思ったんだ。って何だか恥ずかしなこういう話」
少しまじめに返しすぎたかな。
「いい先生に出会えたんだね。素敵な夢だと思うよ」
「そうだな、ありがとうな」
「うん!じゃぁ一緒に学校の先生目指そ!」
「ああ」
それから楓と将来の進路や大学について色々と話をした。
・・・あれ、今日は何の集まりだっけ?
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