第53話 貸切温泉

結城と話をしているとさっぱり顔の裕也と長谷部が帰ってきた。


「随分さっぱりした顔してるな」

「おう中々いい湯だったぜ。3か所ほど温泉をはしごしてきたよ」


と裕也。


「そっか。神社も良かったけど温泉もいいなぁ」

「まだ自由時間あるし小早川と行ってくればいいんじゃないか?」

「そうだな。後で聞いてみるよ。それよりそろそろ夕飯だろ。行こうぜ!」


ということで帰ってきた裕也達と宴会場へ向かった。


---------------

「ケンちゃん こっちこっち!」


楓が村田さんや浜野さん達と場所を取ってくれていて、既に主だった料理も運び込まれている。

地元でとれたと思われる魚の刺身。煮物に天ぷらといった和懐石の料理だ。

温泉旅行だけでも豪華だと思ったけど、この料理凄くないか・・・


「このお刺身美味しい~♪」

「煮物も良く味が染みてて美味しいよ」


冗談抜きで美味い!こんな懐石料理を高校生に出していいのかよ。

とか思いつつ上座を見ると、先生たちが日本酒を飲みながら盛り上がっている。

なんというか、田中先生が、小島先生と三宅先生にお酌をされながらデレデレしてる。小島先生も三宅先生も温泉に入ったのか浴衣姿だ。美人で学内でも人気の2人にお酌されれば・・・まぁああなるわな。

というか引率がお酒飲んでていいのか?


「ふぅ~お腹一杯」

「まだデザートあるみたいだよ」

「本当!それは別腹!」


女性陣は胃袋が2つあるらしい。

というか本当よく食べるな。


デザートのわらび餅を食べ、ひと段落したところで宴会場を出ようとすると裕也に声を掛けられた


「健吾。ちょっといいか?」

「ん?なんだ?」

「さっき、外で入ってきた温泉の1つなんだけどな、坂降りたところにある一番近い温泉。ホテルも併設していて予約制だけど貸切の露天風呂やってたんだ」

「へぇ 貸切かぁ それはゆっくり出来そうだな」

「で、さっき見たら丁度空きが"2つ"あったんで予約してきた」

「2つ?」

「あぁ1つは俺と美玖で入る。もう1つはお前小早川誘って入れ」

「な!!なにを!!」

「ここんところ渋川の件とかで気を使わせてただろ?少しは小早川にもサービスしてやれよ」

「・・・・・裕也」

「健吾も小早川も俺の大切な幼馴染だからな。気にはしてるんだよ。とりあえず19:30にロビーで待ち合わせな」

「わ わかった」


裕也にも色々と気を使わせてるんだな。。。

でもな、気持ちは凄くありがたいけど俺と楓には中々ハードル高いぞこれ。


とりあえず、楓にはラインで「裕也達と外の温泉行こう!」と声を掛けた。

すぐに「うん 行く!」と返事が来た。

はぁ~緊張してきた・・・


---------------

ロビーで裕也と待っていると楓が浜野さんと一緒に歩いてきた。


「お お お待たせ」

何だか楓の顔が赤い。


「あ、田辺君、楓ちゃんには話しておいたからね!」

「お おぅ」


そういうことですか浜野さん・・・ニヤニヤしてるし。


「じゃ行くぞ!」


と裕也。浜野さんは裕也の隣に移動し楽しそうに会話を始めた。

俺の横には楓が着替えを抱え少し俯き気味で歩いている。


「じゃ俺達はこっちの風呂だから。時間は少し短いけど30分だ。出たらこのロビーで待ち合わせな」

「了解」


裕也達と別れ、俺と楓は[家族風呂2]と書かれた部屋に入った。

作りはシンプルで、家族4,5人が着替えられる程度の脱衣所があり、引き戸の先に洗い場と内風呂。さらにガラス扉の先となる屋外に露天風呂がある。


「な なんだか緊張するな・・・裕也達はこういうの慣れてるのかな?」

「う うん。美玖ちゃんたちは何回か二人で旅行とか行ってるって言ってたよ」

「そうなんだ・・・とりあえず折角来たんだし、俺先に入ってるよ」

「あっ・・・」


楓が何か言おうとしていたが、意を決して服を脱ぎ浴室に入った。

そして、とりあえず体を洗い、内風呂に入った。

温泉は、弱アルカリ性の泉質で疲労回復などに効くらしく疲れ気味だった身体を癒してくれた。普通に気持ちいい。

『遅い・・・』待っている時間は長く感じるものだけど、中々楓が入ってこない。

恥ずかしくて入ってこれないのかなと少し諦めていると、引き戸が開きバスタオルを巻いた楓が入ってきた。

タオルを巻いていても大きな胸や括れた腰などスタイルの良さは伝わってくる。

顔は相変わらず少し赤い。多分温泉の熱気だけではないと思う。。。


「お お待たせ」

「お おぅ」

「・・・恥ずかしいからあんまり見ないで」

「ご ごめん」


と洗い場に座る楓に背を向けるようにして温泉に入りなおした。

お風呂だから当たり前だけど、普段より明らかに肌色部分が多い。

多分、俺の顔も赤くなってるはず。鼻血でそ・・・


ザバン

「ん?」


お湯が流れ出る音に横を見ると俺のすぐ隣に"タオルを取った"楓が湯船に入っていた。そうだよね湯船にタオル持ち込むのはマナー違反だよね・・・

一瞬目が合ったが、どちらともなく目を逸らしてしまう。

というか一応手で隠してはいるけど、まともに楓を見れない。


「い いい温泉だな。なんだか疲れが取れる」

「そ そうだね。筋肉痛とかに利きそう」

「・・・・・」

「・・・・・」


会話が続かねぇ~

と思っていると腕に何か柔らかいものが・・・って楓?

楓が俺の腕に抱き着いてきていた。

が、かなり無理しているのか少し震えている。

・・・楓に頑張らせてこのままじゃ男じゃないよな。


俺は楓の背中に手を回して抱きしめた。

肌と肌が触れ合う。

一瞬驚いた顔をしたが、俺の目を見つめてきたのでそのままキスをした。

いつもと違い舌を絡め合う大人のキスだ。

唇を離すともう一度楓を抱きしめた。そして耳元で囁いた。


「続きは次の旅行でね。今日はここまでだ。震えてたぞ無理すんな」

「う うん ケンちゃん ありがと」


楓を気遣ったというか、俺もこのままじゃ理性を保つのが辛い。

その後、時間ぎりぎりまで二人で肩を寄せ合い温泉を楽しみ、服を着てロビーに戻った。既に裕也達はロビーでくつろいでいた。


「お、2人とも良い笑顔だな。色々とお楽しみ出来たのかなw」

「これは、後で楓ちゃんに事情聴取しないとかなw」


とニヤニヤする裕也と浜野さん。

本当こいつら似たものカップルだな・・・


「そんな やましいことはしてないぞ。ほら湯冷めしちゃうし早く宿舎戻るぞ」

「へいへい」


今日は天気がいいので星もきれいに見える。

明日も晴れそうだな。

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