懐胎
妊娠は真拆の自己申告によって初めてわかった。医師は驚いて心当たりを訊いたがそれを月と答えるよりほかにはどうしようもないのだった。月による処女懐胎となると――生まれてくる子供はこの世のものではあるまい。しかし自分のからだに宿るその生命がどうしようもないくらいに愛おしい。疫病草を見つめながら、ぼんやりとそんなことを考えた。真拆はよく睡った。かつての不眠症が嘘のように一日の大半を睡眠に費やし、もう水しか口にしない。そのからだに聴診器を当ててみても、鼓動の音はまったく聞こえず、ただ周期的な漣が聞こえるばかりであった。
それから十月十日――ではなく、27日と7時間43.1分で臨月を迎えたことに今さら驚くこともないだろう。それは奇跡としか言いようがなかった。月が真拆を視てからちょうど一公転した後、この海辺の小さな診療所に産声が響いた。
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