スーホ

第1話

愛犬を散歩させるコースにバリエーションをもたせようと、普段とは違うコースをたまに歩く事がある。


そうやって新たに開拓したコースをここ数日、連続して歩いている。


なぜ連日そのコースを歩くかというと、その道の途中にある岩があるから。



散歩をする時間は、だいたい深夜の0時を少し回ったくらいになる。


仕事から帰ってきて、軽く一服してから出るのが日課なのだ。


休日になれば日中に散歩してやるのだが、平日はどうしてもそんな時間にしか出してやれない。


昼間は家族の誰かが運動させているのだが、夜の散歩は私の担当なのだ。



それを始めてみたときは心臓が止まるかというほど驚いた。


ぼんやりと歩いていて、何かあるなと視界には入っていた。


しかし、それはどこにでもある岩に見えた。


それに距離にして3mほどに近づいた瞬間、その岩は実は腰の折れ曲がった老婆が道端に座り込んでいるのだとわかった。


その距離まで近づくまで老婆だと認識できなく、急にそこに人が居ることに気づいてドキリとした。


居るはずのない場所に急に人物が現れたという感じだ。



そして改めてその老婆に視線を投げる。



あれ?


老婆ではなかった。


それは岩だった。


最初に認識したようにやはり岩だったのだ。


岩として見ると、どこにも老婆の面影はない。


シュミラクラ減少のように、3つの点があれば顔に見えるとかそういう感じでもない。


全く人を連想させるような形はしていない。



愛犬も特に何も反応を示さない。


その日はそのまま帰宅した。



翌日、同じコースを歩くことにした。


その時はあの岩のことなどすっかり忘れていて、新しいコースをもう一回歩いてみようと思ったに過ぎない。


そして岩の箇所に来て、やはり3mほどに近づいた瞬間、視界に中に急激に老婆の存在感が主張を始め、どきりとする。


心拍数が跳ね上がる。



素早く視線を向けると、やはりただの岩だった。


2日連続だ。


少し、嫌な感じを覚える。



見るとは無しに見ると、それは明確に老婆なのだ。


それ以外に説明できないほどはっきりと、道端に腰を下ろした老婆にしか見えない。



いや、ただしくは明確に見ているわけじゃない。

あくまで視界の端に映る映像はそうなのだ。


しかし改めてしっかりと見ようとすると、ただの岩になる。


いったい何がそう見えさせる要因なのだろうか。


岩をまじまじと見てもどこにも老婆には見えない。

人のようにも見えないのだ。


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