宇宙エレベータ500階、太陽下り船 出港します!!(2020)
山汽 途
プロローグ
ワイン色に透き通る、宇宙軌道エレベータ。
母星エバンスから、ドーナツ形の月を貫いている。
エレベータは月の砂・リゴレス製。
リゴレスと樹脂を混合して加熱すると、ステンドグラスの様になる。
この超巨大な筒の中を、えんぴつ型のビルが往復している。
エレベータの原型は100年前に完成した。
だけど、あまりに長い距離なんで、輸送の光速化が求められた。
そして10年前、『物質を光に近い速さで動かす原理』が応用され、
ついに光の38%のスピード輸送が可能になった。
その時、奇跡が起きた。時間と空間に隙間が生まれ、
異次元への扉が開いたんだ。
10年経った今、異次元人がこっちの世界に移り住んだって噂が流れてるけど、
僕はまだ見たことがない。
人口が溢れる宇宙エレベータの周りには、オレンジ色の無数の光が集まっている。その一つ一つが家、学校、病院、それにドーム球場。
宇宙旅客機から見ると、母星を根にした輝く大樹だ。
今、世界の中心はこの大樹のエリア。空気が宇宙エレベータの周りを満たし、みんな薄着で生活している。
道路なんてない。エアー噴射のオープンカーで、宇宙空間を移動するんだ。
大人たちはTシャツで会社に出かけ、スクールバスの女のコ達は宇宙でも賑やか。
自己紹介するね。僕はプラス。ハイスクールでは、マイクロ機械工学を専攻してる。
夢は機械工学を駆使して撮影セットを造り、世界一おもしろい映画を作ること。
でも半年前の事故のせいで、僕の首から下は動かなくなってしまった。髪がムラサキ色になったのもそれが原因。
そこで僕は細菌より小さなロボット『ピコメカ』を使って、宙に浮かぶ車椅子『エアロ・チェアー』を作った。
ピコメカは数億単位で動き回ると、空気中の水素と炭素の分子配列を変えて、焼き立てのトーストだって作れちゃう最先端のテクノロジーだ。
僕が思い浮かべた設計図を、愛用のゴーグル型パソコンにダウンロードすると、エアロ・チェアーから光る粒子のピコメカが飛び出し、何でも作り出せる。
ちなみにチェアーは、常温使用が可能になった超電導のチカラで浮かせている。
今はいつか来る映画製作の為に、アルバイトの毎日だ。今日の仕事はコマーシャル撮影。と言っても僕は撮影される方。
僕のアルバイトはズバリ、アイドル活動なのだ!
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