第7話 勉強はしたけれど

 今日。

 学校が休みで良かった。

 静の前で、腕を掴まれたままこっちの世界に戻ったんだ。

 きっと静は、もう気づいてる。

 いや。

 私に何かを感づいて、あの話をしたのかもしれない。

(私とのんちゃん、あんま似てないと思うけど)

 性格は。

 ちょっと似てる…かな。

 でも。

 静の口から、はっきり、野理花っていう名前を聞いた。

 遠い昔好きだったって。そんでもって、今も。

 でも、一つだけクリア出来ない問題があるんだ。


 それは。

 年齢だ。

 静は十七。

 のんちゃんが静とつきあっていたのは、かれこれ三、四年は昔の話だ。

 あのころ、私が見た静は、どう見ても二十歳前後だった。

 いや。

 逆に言えば、そこさえクリア出来れば他のつじつまは合う。

 静が何らかの方法で、現代こっちの世界へ来て姉と恋愛関係になった。しかし、再び何らかの理由で向こうの世界へ戻った為に、姉と何の別れ話もなく、別れる羽目になった。


 静は。

 少し昔の恋人に似ていて。

 ひょっこり現れたり消えたりする、何だかよくわからない女の子に。

 自分が昔見た世界の子だって。

 本の外の世界の子だって。

 思ったのかもしれない。

 そのとき、

「あっ」

 私は思い出した。

 静は。

 二度目に会った時。おまんじゅうを食べながら。

 -こっちのは、パサパサしてる-

 そう言った。

 …。

 パサパサ…。

 そんなの、普通言わないよね。

 静は。

 気づいてる。

 私が、本の外の人間で。

 もしかしたら。

 野理花の妹かもって。

 だって。

 私たち、一度会っているから。

 会ってる。会ってるんだ。


 よし!

 今度こそ、全部確かめよう。

 仮に。

 仮に、この仮説が正解だったら。静は、のんちゃんと……。

 それで…。

 それから、考えよう。

 この夏。

 私の大冒険が始まった。



 私はそれからは、のんちゃんから古語辞典を借りて、一分で本を閉じ、わからない語句を調べ、ひたすら勉強をした。

 今度こそ、失敗は許されない。

 学校でも、社会の先生に昔の人々の常識をわざわざ聞きに行った。

 文ちゃんと、ひかりは、単に、

 -飛鳥が勉強に燃えてる-

 って、からかい始めたけど。

 いやいやいや。

 日本史と古文だけです。

 でも。

 いける。

 今度こそ。

 明日あたり、準備万端、静へのお土産を持って。

 行こうと思っていた。

 でも。

 もうちょっとだけ。あと、ちょっと…だけ。

 深夜まで勉強していたら。

 眠気が……。



 -ん?-

 今、唇が温かかった。何かに触れた気がした。

 体がフワフワして、あったかい。

「………」

 ゆっくり。

 目を開けた。

「あっ‼︎」

 そこに居たのは。

 あの時牢屋で見た、ニセモノの次郎で、女山賊の。

 七緒だった。

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