第4話 葬式


実家に帰ると、葬式の準備が行われていた。

家の向かいの大きな蔵が四つあったところに体育館のような建物が建てられていて、その中に近所の人たちが集まっていた。

中央で黒いネクタイをしめた父が仕切っている。

なにやら大規模な葬式が開かれるみたいだが、最近身内で死んだ人は誰もいない。


地方から帰ってきている人も多いようで、わたしと同い年ぐらいの男の子を見かけた。

準備で忙しい大人たちに構ってもらえず、その子と遊ぶことにした。

側道に沿った用水路に笹舟をうかべる。

小さな三叉路を駆け足で往復しながら、越えた先で自分たちの舟が無事なのか、何度も何度も確認して、その先どこで転覆するかもわからない行く末は、心の隅においたまま。


日が暮れる前に現れた、疲れきった父に連れられて体育館に戻る。大量の寝袋が並べられていた。どうやら今日は、この葬式に関わる人間たちはこの体育館に泊まるらしい。昼間に遊んだあの子も、この中のどこかにいる。


夜、ガラス張りになっている天井の隙間から星空がみえた。皆寝静まっていた。静かすぎて広すぎるこの空間こそが、通夜そのもので、だとしたらこれは一体だれの葬式なんだろう。

ふいに肩を叩かれ、目をやると、あの子が僕を呼んでいる。また笹舟をやろう。

昼間に遊んだ場所と全く同じはずなのに、夜は不気味だった。虫の鳴き声が一切聞こえず、用水路に流れる水の音だけが響いた。

笹舟を作ろうとして、昼間あんなにたくさんあった笹が今は一本もないことに気づいた。これじゃあ遊べないね、そう言って帰ろうとしたわたしの前に、あの子が立ち塞がって、遊ぼう、と言った。笹がないことは十分承知しているようだった。そして途方にくれている私の内心を理解したうえで、こう言った。

別なものを流せばいいのさ、たとえば、、、、

そしてあの子の白い手がわたしのほうに伸びてきた。

“君か僕か“

そう言われるような気がして、咄嗟に私も手を伸ばす。あの子は思ったより力無く、用水路に落ちていった。しかも、笑っていたような気がする。

どうしたらいいか分からず、わたしは体育館へ必死で走った。明かりが付いていた。

扉をあけると、大人たちが一斉にわたしのほうを振り向いた。さっきまで眠っていたはずなのに、全員が席についていた。中央には立派な祭壇が置かれていて、そこにあるのはあの子の写真だった。




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