正直な広告

 とある小説投稿サイトでは、作者の収益化を図るため作品ページの下に広告を付ける取り組みを始めた。

 勿論、そのような広告のシステムはありふれたものである。そしてそういった広告は、来訪者の検索履歴や閲覧データから関心を持たれやすいものが表示されるようになっている。だが、その投稿サイトでは読者ではなく、作者の趣味嗜好に応じて、広告がつけられるといった変わった取り組みが行われていた。

 

 広報担当者はこう語った。

「作品を読んでいる読者は、こんな作品を書く作者は普段どんなものに関心があるのだろうかと純粋に興味を持つ方も多いと思いますし、面白い作品を書くにはどういう趣味を持つべきなのか知りたいという方もいると思います。小説投稿サイトとして、単純に広告をつけるのではなく、読者と作者を繋ぐ取り組みになればいいなと考えています。」


 さて、実際の読者の反応はいかがなものだろうか。

 やはり、広告で多かったのは書籍化されたライトノベルの作品の広告である。当然ながら面白い作品というものは自分が好きな事についてしか書けない。先人達の作品から、新しい作者は生まれてくるのだ。また、いつか自分の作品も同じ舞台に並びたいという向上心の表れでもあるかもしれない。

 他には、哲学の著書の広告が出る人の作品はメッセージ性や文章構成がしっかりしていたり、アウトドアな広告が出る人の作品は情景描写が細かかったりするという風に作者がどういう日常を過ごして、それがどう作品にフィードバックされているのか垣間見えるのも好評だった。

 だがそんな中とりわけ目立ってしまったのが、いかがわしい広告である。R18ゲ―ムから出会い系サイトの広告まで年齢問わず、無駄に幅広いジャンルまで網羅されていた。まるでお母さんに隠していた本を見つけられたような気分に作者も読者も得をしていなかったが、

「男はエロが好きな生き物なんだよ。」

と開き直る者も入れば、恥ずかしさのあまり広告を非表示にした作者も多い。

 他にも「作者と作品は切り離して考えるべきである」といったような意見もあったが、全体的には好評だったと言って良いだろう。広告表示は任意で切り替えることができるのため住み分けもできる。同じ趣味を持つ作者同士での交流も増え、サイト全体としては以前よりも活発になった。


 そんなある日、公式サイトがあるお知らせを投稿した。

 『プレミアム会員になりませんか?プレミアム会員になると、読んでいる作品の広告のオンオフを自由にできます。また、作者も自分が掲載したい広告を自由に選ぶことができるようになります。』

 月額課金で広告のカスタマイズをできるサービスの告知だった。課金ということに嫌悪感を抱く者も多かったが、大手の音楽サイトや動画サイトが似たようなサービスを始めていたこともあって、受け入れられる下地はできていた。

 それに必要がないなら加入しなければ良いのだ。広告騒動で疎外感を感じていた作者達も、これで元通りに投稿できると喜んだ。


 その数日後、プレミアム会員サービスについて追加の告知が投稿された。

『プレミアム会員制度がもうすぐ始まります。そのため今日から試験的にどの投稿にも強制的に広告が入るようになります。』


 この発表に対して、サイト利用者の反応は運営の想定していたものではなかった。SNSでは怒りや困惑の声が相次いだ。その理由は、プレミアム会員制度自体にではない。

 そのお知らせのページ下部に表示された広告、つまり運営が日頃から検索している閲覧データが表示されていた。

『編集長の立場を利用して文学少女とイケない恋!シーズン3』

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