19.VS.ネームドモンスターです!
とりあえず手近にいた弱ったモンスターは倒してしまう事にして、スズカちゃんから詳しい話を聞いたよ。
スズカちゃんの方でもファーラビット達にダメージを与えて【手加減】取得のための練習を続けてたらしいんだけど、そのうち急に周囲からモンスターがいなくなって、三日月型の模様が額にある一匹の真っ黒いウサギが現れたらしい。
それで、そいつがネームドモンスターという言わばフィールドボスクラスのモンスターらしいね。
「うーんネームドモンスターか。あれってテイムするための条件があって、なかなか大変なんだよね」
「テイムするのに条件がいるの?」
「普通のモンスターなら戦い方の好み程度の問題しかないんだけど、ネームドモンスターは明確にテイム条件が決まっているのよ」
そんなモンスターもいるんだ。
確かに普通のモンスターに比べると段違いに強いって事だから、それもしょうがないのかな?
だって、ゲームの世界なんだし。
「それで、ファーラビットのネームドモンスターをテイムする条件なんだけど……」
「条件も知ってるんですか?」
「この街の周辺とか、有名どころは知ってるわ。それで、ファーラビットの場合だと【テイマーが従魔も連れずに一人でHPを7割以上減らす】ことなのよね……」
「うん? 強いとは言ってもファーラビットなんですよね? そんなに大変なんですか?」
「ステータス的にはワイルドドッグよりも上ね。その上で高いAGIを活かした高機動戦闘と特殊スキルの【斬撃】ってスキルを使って、こちらの弱点を的確に狙ってくるのよ」
うーん、それってとても強いって事なんだろうか。
でも、それならテイムにチャレンジしてみたいな。
滅多に遭遇すらできないらしいしね。
「あの、ユーリさん。ボクがテイムに挑戦したらダメですか?」
「ダメじゃないけど……かなり厳しいわよ?」
「それでも挑戦してみたいです!」
「そう、わかったわ。それじゃあ、パーティから外れてシズクも送還して頂戴」
言われたとおりにパーティから離脱して
その後はユーリさんから大量の初心者用HPポーションと初心者用MPポーションをいただいたよ。
とりあえず首筋を斬られる即死攻撃さえ受けなければ、なんとかなるらしい。
ダメージを受けたらポーションは惜しみなく使って行けって言われたよ。
武器の状態も確認してボクの方の準備はできたので、ネームドウサギのところへ向かう。
ここは王者の風格というか、逃げたりせずにこちらの姿を堂々と見物していたらしい。
ある程度距離をとって武器を構えると、周囲のフィールドが赤いオーロラのような壁に囲まれたんだよ!
「リーンちゃん。ネームドモンスターとの戦闘は、勝つか負けるかするまで隔離されたフィールドで戦うの。だから私達は決着がつくまで手出しができないわ。頑張ってね」
「あの、がんばってください!」
ああ、なるほど、そう言う仕掛けね。
それなら頑張るしかないよね!
「うん、頑張るよ!」
「ああ、それから。同じ個体のネームドモンスターにテイム戦を挑めるのはリアル24時間に1回だから、負けたらそれで終了ね。気をつけて戦って」
「……そう言う事は早く言ってほしかったけど、了解です」
さて、改めてネームドラビットの方を確認させていただきましょう。
ネームドラビットは相変わらずじっとしたままこちらの様子を窺ってます。
そして器用な事に、前脚をクイクイと動かして挑発をしてきたじゃないですか!
まあ、見た目はウサギなので挑発されてもなんとも思わないけどね。
とはいえ、挑発までされたんだから先手は譲ってもらえるらしいです。
なら、ボクの全力でお相手しましょう!
「行くよ! ストライクウィップ!」
ボクは鞭スキルの基本技で高ダメージスキルのストライクウィップを繰り出した、
ネームドウサギは素早く横移動をして鞭の攻撃を躱すと、そのままボクに向かって突っこんでいた。
体当たりかな、と思い身構えるとボクに当たる直前にムーンサルトキックを繰り出してきたんだ。
そしたらわずかな痛みとともに、ボクの腕に切り傷ができてたんだよ。
……これが【斬撃】ってスキルの効果なのかもしれないね。
蹴り技に【斬撃】スキルの効果を乗せる事で、首なんかの急所を斬られると大ダメージは必須、ボクの場合だと即死かも。
ひとまず最初の攻防を終えたボク達は、その後は一進一退の攻防を繰り広げたよ。
ボクの攻撃はネームドウサギに躱されるし、ネームドウサギの攻撃もしっかりとガードするから大したダメージにならない。
……もっとも、ボクの方でダメージが減っているのは、シリルさんからもらった防具の防御力が高いって言うのが大きいんだけどね。
何発かはガードに失敗して直撃したけど、丈夫な防具のおかげで大ダメージは防いでくれた。
シリルさんには今度、改めてお礼を言わないとダメだね。
ボクの方はダメージが蓄積してきたらポーションや魔法を使って回復、ネームドウサギはボクの攻撃がかすりもしないのでいまだノーダメージ。
そんな状態が10分近く経過して、ポーションがなくなりそうになりそうな頃、ボクに突進してくるネームドウサギの動きを見て気がついた事があるので試してみる。
それは、
「でい!!」
「キュッ!?」
ネームドウサギが蹴りを放とうと飛びかかってきたところを、逆にこちらから飛びかかって蹴り技を防ぎつつ受け止めるという単純な戦法だった。
でも、この作戦は上手く行ったみたいで、ネームドウサギの動きを封じ込める事ができたんだよ。
ネームドウサギは逃れようと必死にジタバタするけど、得意の蹴り技が使えない状況ではただのウサギさんなのだ!
とはいえボクも両手を使ってネームドウサギを押さえつけてるわけだから攻撃ができない。
なら、こうすればいいんだよね。
「そーれー!」
「キュー!?」
ボクは全力でネームドウサギを上空へと投げつける。
しかも、投げつける時はきりもみ回転するように調整してだよ。
ボクの
そしてネームドウサギが上空にいて身動きが取れないうちに蛇腹剣を取り出して、鞭モードに変更。
そしてストライクウィップを上空にいるネームドウサギに叩きつける!
するとストライクウィップの衝撃をもろに受けたネームドウサギは、地面に叩きつけられて動きがふらついているんだよ。
ネームドウサギの体力も4割以上がなくなっていたね。
ネームドウサギの状態は一撃で大ダメージを受けたときの効果、『意識朦朧』だと思う。
本当ならもう一段階上の『気絶』までいってほしかったんだけど、そこまでいかなかったみたい。
なお、この辺の状態異常の情報はここまで来る途中にユーリさんが教えてくれました。
ともかく相手がふらついてる間にトドメのストライクウィップを叩きつける。
すると意識朦朧状態が継続しているネームドウサギさんでは回避しようがなく、ストライクウィップがクリーンヒットしたよ。
流石にやり過ぎちゃったかなと心配になったけど、ネームドウサギさんのHPはしっかりと1割弱だけ残ってました。
大ダメージを受けたネームドウサギさんはゆっくりと立ち上がると、ボクの方に向かってぴょんぴょん跳んでくる。
そしてボクの前までたどり着いたら、仰向けになってお腹を丸出しにしたんだよ。
一体何のポーズなんだろう?
「リーンちゃん、そのポーズはネームドウサギが相手の力を認めて相手に従うことを決めた証だよ。早くテイムしてあげて」
ユーリさんの解説で、この珍妙な仕草の意味がわかった。
テイムを受け入れてくれるというなら、早速テイムしてあげようじゃないか!
〈ファーラビットのテイムに成功しました。この個体はネームドモンスターのため名前が初めからついています〉
〈同種族内で初のネームドモンスターのテイムに成功したため、ボーナスSP1が与えられます〉
ネームドモンスターは名前をつける事が出来ないのか……
まあ、仕方が無いよね。
SPが手に入った事も気になるけど、まずはこの子のステータスチェックからいってみよう!
――――――――――――――――――――――――
名前:プリム
種族:ファーラビット Lv.5
HP:35/35 MP:42/42
STR:20 VIT:12 DEX:30
AGI:35 INT:20 MND:10
スキル:
【かみつき】 【体当たり】 【蹴撃】
特殊スキル:
【クリティカル率上昇】 【斬撃】
――――――――――――――――――――――――
ほうほう、この子の名前はプリムちゃんか。
さて、肝心のステータスだけどネームドモンスターと言うだけあってかなり高いね。
特に、STRとかウサギとは思えない程高いよ。
それから気になっていた【斬撃】スキルだけど、『MPを消費して一部の攻撃に斬撃攻撃を追加する事ができる』んだって。
これって【蹴撃】の蹴り技に【斬撃】の効果を乗せてたって事だよね。
ともかく無事にテイムが成功してよかったよ。
「リーンちゃん、お疲れ様。無事、テイムが成功してよかったね」
「リーンちゃん、すごかったです! ネームドモンスターをテイムできるなんて!」
「二人ともありがとう。これもシリルさんの防具とユーリさんからもらったポーションのおかげだね。ありがとう、ユーリさん」
「どういたしまして。……さて、それじゃあ、これからはアクシデントも起こらないだろうしウサギ相手の練習を再開しましょうか。リーンちゃんはテイム枠には余裕があるわよね? それなら何体か余裕を持ってテイムしておきましょう」
「構わないけど、どうして?」
「テイマーギルドの常設依頼で『テイムしたファーラビットの納品』って言うのがあるのよ。それをクリアしてお金と貢献度を稼ぐためね」
「……世の中やっぱりお金なんだね」
「お金は何をするにも使うから大事よ?」
「……そうだよね。うん、頑張るよ」
気持ちを切り替えて普通のウサギを相手にしようとしたら、プリムがボクの袖を引っぱり始めた。
「プープー」
「うん? 何か用かな? ひょっとして同族を傷つけてほしくない?」
ボクの質問にプリムは首を横に振って答える。
……ボクの言葉がわかるのかな?
不思議に思っていると、プリムはどこかから取り出したウサギの毛を使ったチャームアクセサリーを見せてくれる。
……ひょっとしてボクにくれるのかな?
「ああ、そう言えば。ネームドモンスターをテイムした場合、確定でアクセサリー装備をくれるのよね。ファーラビットの場合、『三日月兎のチャーム』って言うアイテムなんだけど、LUK値が40も上がる優れものよ」
「何そのアクセ。性能がよすぎない?」
「LUKは直接的には強さに影響しないステータスだからそこまで強くなれないのよ。でも、テイマーにとってはテイムの成功率が上がる便利アイテムよ」
そう言う事ならありがたく使わせてもらおうかな。
「ありがとうプリム。大事に扱わせてもらうよ」
「プープー!」
上機嫌になったプリムを優しく撫でて、ボク達はウサギ相手の練習を再開したよ。
この子があの凶暴ウサギだとは思えないね。
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