3.第一モフモフとの契約とチュートリアルのお時間です!

 本日は序章終了まで更新という事で合計3話投稿いたします。

 この話は3話目です。

 1話目、2話目がまだの方はそちらからどうぞ。



**********


 遥か上空からの紐無しバンジーは無事着地できたよ……

 と言うかテレビで見た羽毛が落ちるときのように、すごいゆっくりと地面に着地できたんだ。

 そう言う設定なら早いところ言ってくれればいいのに、本当にあの天使様はどこか仕事が抜けてるよね!


 ボクは抱きかかえていたタマゴの様子を確かめて見た。

 攻略サイトに書かれていた内容が本当なら、アドラステア世界に降り立ってすぐにタマゴから孵るって話なんだけど……


 仕方が無いので周囲の様子を確認してみると、現実と言っても過言ではない平原がひろがっていた。

 空からの眺めも結構良かったけど、地上からの眺めもなかなかのものですな。


 周囲の様子を眺めていると、大事に抱えていたタマゴが震えだした。

 ボクはタマゴを地面にそっとおろして、その様子をじっと観察する。

 タマゴの震えは少しずつ大きくなり、やがてタマゴがピカッと光って割れたんだ。

 光が収まったときに出てきたのは子犬サイズのカワイイワンコ。

 その姿はまさしくシーズー。

 この子こそボクが待ち望んだライトニングシーズーだよね!


 シーズーは可愛らしい瞳でボクを見つめてくる。


〈ライトニングシーズーが仲間になりました。名前を決めてください〉


 攻略サイト曰く、正式な契約にはボクが名前をつけなきゃいけないんだって。

 でも、ボクはちゃんと名前をあらかじめ決めてあるんだよ。


「君の名前はシズクだよ! これからよろしくね」


 名前をつけてあげると大喜びでボクに飛びついてくるシズク。

 尻尾も千切れそうなくらいブンブン振り回していて、とっても嬉しそうだ。


 できればこのまま時間が許す限りシズクとイチャイチャしていたいけど、そう言う訳にもいかない。


〈チュートリアルを開始します。まずは街道沿いに進んでください〉


 どうやらこれからチュートリアルという事らしく、まずはチュートリアルをクリアしなくちゃいけないんだって。

 ……ボクはあまり冒険とかする予定はないから、チュートリアルなんてスキップしてシズクと遊びたいけどそうも行かないらしい。

 残念だけど、本当に残念だけど、チュートリアルを進めて街へと向かおう。


 ボクの周りを楽しそうに駆け回るシズクに癒やされながら、平原の中に用意されていた道を歩いて行く。


〈採取チュートリアルを開始します。周囲の採取ポイントから薬草を5つ見つけ出してください〉


 少し歩くとクエスト表示が出て、周囲で薬草の入手をするように指示されたよ。


 薬草がどこにあるのか探そうとしたけれどなかなか見つからない。

 そもそも薬草がどういう形でどんな場所に生えているのか知らないんだから、いきなり薬草を探せと言われても困ってしまう。

 そうしている間に、シズクが少し離れた場所で僕を呼ぶようにワンワン吠えだした。

 シズクのところに行くと、そこには薬草が生えていて、それを入手することで無事クエストが進行したよ。

 ちなみに、どの草が薬草なのかを見分けるには、全プレイヤーが覚えているスキル【鑑定】で一発だ。

 ……鑑定レベルが低いと調べられないこともあるらしいけど。


「シズクはすごいね。薬草のある場所もわかるなんて」

「ワンワン!!」


 1つ目の薬草の入手が終わったのでまた周囲を探していると、シズクがまたワンワン吠えている。

 今度はすぐに薬草を採取せず、周囲の様子と比べてみると、うっすらと薬草の周囲が光っていたよ。

 これが採取ポイントの証って言うことなのかな?


 結局、シズクには4つ目までの薬草を探してもらい、5つ目の薬草は自力で探してみた。

 ……最後の1つだけ20分近くも探す事になってゴメンね、シズク。


 薬草採取を終えてまた歩き始めると、新しいシステムメッセージが届いた。


〈武器を使った戦闘トレーニングを始めます。武器を準備してください〉


 、今度は戦闘チュートリアルが始まったみたいだよ。

 ボク行く手を遮るように、3匹のモンスターが現れた。

 鑑定してみるとゴブリンルーキーって出てきた。

 事前調査によるとゴブリンは序盤では少々強めのモンスターらしいのだが、チュートリアルで出てくるゴブリンは弱体化されたゴブリンのゴブリンルーキーらしく、初心者装備でも十分に倒せる程度の強さらしいよ。


 ボクの武器は【鞭】スキルを選んだときに取得した『初心者の鞭』と、【光魔法】で入手した『初心者の杖』の2つのみ。

 武器を使ったトレーニングらしいから、魔法を使うわけにはいかないんだと思う。

 もっとも、ボクはまだ、魔法の使い方を知らないけどね!

 そう言う訳で武器を使わなくちゃいけないんだろうけど、自慢じゃないけどボクは都会育ちの女の子。

 どっちの武器も使った事なんてあるわけないよ。

 仕方が無いので、リーチがある鞭の方を取り出して戦闘準備を整える。


 ボクが装備を取り出したのが戦闘開始の合図になったのか、ゴブリン達がゆっくりとだけど近づいてきちゃった。

 仕方が無いので、鞭をブンブン振り回して攻撃してみるけど上手く攻撃が当たらないよ……

 偶然、当たったとしてもあまりダメージを与えているようには思えないし、どうしよう……


 そんな中、颯爽とボクの前に飛び出してきたのはパートナーのシズクちゃん。

 走って飛びかかるのかと思いきや、なんと先頭のゴブリンルーキーに襲いかかったんだ。

 空を飛ぶことができるって言うのは知ってたけど、実際に目の前で見るとびっくりだね。

 シズクの噛みつきとひっかき攻撃を受けたゴブリンルーキーは呆気なく倒されて消えていった。

 ライトニングシーズーは物理攻撃力が低いって聞いていたけど、流石にチュートリアルのモンスターくらいならへっちゃらなんだね。

 1匹目のゴブリンルーキーを倒した後、残り2匹のゴブリンルーキーもあっさり倒してくれるシズクちゃん。

 倒した後にボクの側に駆け寄ってきて「褒めて褒めて」と期待のまなざしを向けてくる。

 ボクはもちろんたっぷりとかわいがってあげるのだが……頼りないご主人様でゴメンヨ。


 その後、納得のいかなかったボクは再戦を選択して、シズクに最初に2匹のゴブリンルーキーを倒してもらい、残った1匹を相手にひたすら鞭を使った攻撃の練習を続けた。

 その甲斐もあって、30分ほど頑張った結果、【鞭】のスキルレベルは3まで上がったよ!

 30分というのが早いか遅いかわからないけど、シズク抜きでもゴブリンルーキー3匹を同時に相手取ることができて満足満足。


 武器戦闘のチュートリアルが終わった後、さらに歩いているとまたゴブリンルーキーが現れた。

 システムメッセージを読むと、今度は魔法で倒さなきゃいけないんだって。

 仕方が無いので杖を構えると、魔法の使い方が自然と理解できるようになった。

 あまりにも都合のいい展開だけど、あくまでもこれはゲームなんだからと自分に言い聞かせてボクは魔法を使ってみる。


「ライトボール!」


 今回は無事に魔法が発動して、先頭にいたゴブリンをライトボール2発で倒す事に成功した。


 次のゴブリンに向けて魔法を使おうとすると、ボクの前にシズクが飛び出してきた。

 何をするのかと思い、シズクの様子を窺っていると、シズクがうなり声を上げ始める。


「ウゥゥゥ、ワン!」


 シズクが一声吠えると、晴天なのにもかかわらずゴブリンルーキー達に対して雷が落ちてきた。

 ボクの弱い魔法でも耐えられないようなゴブリンルーキーがいきなりの落雷などに耐えきれるはずもなく、残っていたのは雷が落ちた後の黒い跡だけだったよ。


 おそらく今のがライトニングシーズーの代名詞である、中級雷属性魔法『サンダーボルト』だろう。

 ライトニングシーズーは、初期から選べるパートナーの中で唯一、いきなり中級魔法を使えるすごい子なのだよ。

 でも、中級魔法は初級魔法に比べて段違いに消費MPが多くて……今の一発でシズクのMPは3分の1くらい減っていた。

 しかも、シズクの最大MPはボクの3倍以上はあって……

 つまりはボクのMPだとサンダー1回で全部のMPを使っても足りないという事なんだよね。


 ライトニングシーズーは魔法系寄りのステータスで【MP回復速度上昇】というスキルも持っているお利口さん。

 でも、初期魔法は攻撃力が高いけど燃費が悪すぎるサンダーボルトしか覚えていないというね。

 序盤ではほとんどの敵を一撃必殺な高攻撃力なんだけどコストも高いというのがライトニングシーズーなんだよ。

 そのせいで、こんなにカワイイのに不人気パートナー扱いされている不憫な子なんだ。


 でも、ボクは周りの評価なんて気にしない。

 このカワイイモフモフと一緒にこの世界ゲームで過ごすって決めたんだから!



 そんな決意も新たに平原を歩いていると、また天使様が現れた。


「遙かなる旅路の準備は完了いたしましたでしょうか?」


 うん、これはチュートリアル終了の確認だね。

 なので、ボクは迷わずにこう答える。


「うん、準備はできたよ。ボクはこれからモフモフライフを楽しむんだから」

「承知いたしました。それではあなたの旅路に幸多からん事を」

「あ、ちょっと待ってよ。チュートリアルフィールドに着いたときの紐なしバンジーは酷くない?」

「多くのプレイヤーの皆様には好評をいただいております。なので問題はありません」

「でも、ボクみたいに怖がる人だっているわけでしょ。だったら……」

「本ゲーム中では実際にあの高さくらいから落とされる可能性もあります。そのための練習とでも思ってください」

「……そうなんだ。そんな状況にならないように気をつけるよ」

「用件は以上でしょうか? それではオープニングイベントを開始いたします。それではこの世界をごゆっくり堪能ください」


 天使様の声が終わると同時に、ボクの意識がゆっくりと薄れていき、やがて微睡むように目を閉じるのだった。

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