第二章 クラン創設

最強は、懇願される

 無事善悪の塔から、プラークシテアーの街へ戻った私は、そのまま倉庫へ向かいPK相手が落とした装備品とMOBから出たアイテムを選別する事にした。

 

 まぁ、PK相手が落とした装備は、強化されてるから間違えることはないんだけど。

  

 +15マジックローブ

 +10闇のリング

 +7アイアンブーツ

 +6ミスリル プレイトメイル

 

 PK中はシステムログを見る暇がなかったから気付かなかったけど、闇のリングとマジックローブ以外ゴミじゃん。良くこんな低い強化値の防具で、あのボーンドラゴンの狩りに参加しようって思えたなぁ。私なら絶対に断るわ。

 とりあえず、先に全体チャットで、グランドロールの人に密談くれるように言うでしょ。それから、密談で街の中央にある十字架が浮かぶ噴水クロスまで取りに来るように言えば良い。取りに来ないなら持ってるのも盗んだって言われるのも嫌だから、公開強化して消滅させてしてしまおう。

 正直、全体チャットで呼びかけるのが嫌だ。でも、PKするって決めた時、自分で決めた決まりだから守りたい。


 全チャのタブを開いて、暫しの間目を閉じる。

 基本、人とのかかわりが上手く出来ない私は、見ず知らずの人が自分のチャットを見ると思うと緊張して委縮してしまう癖がある。だから、本当に必要なこと以外今まで発言したことがない。故に、本当に勇気を振り絞らないと発言できないのだ。


 よし、や、や、やるぞっ!


{[シンゲツ] 誰か血盟入れてくれませんか~?}

{[ren] グランドロールのマスターもしくは代理、居たら密談plz}

{[松本晴彦] ファストウェブでは血盟員を募集しています。密談plz}

           ・

           ・

           ・

”ヘラクレス” 先ほどは、どうも。今どちらも居ないので代わりに密談しました。

”ren” 装備返却希望者。クロスカム来て

”ヘラクレス” 落とした奴が悪いので処分してもらって結構です。

”ren” 了解。盟主に明日23:00までに連絡しろって伝言よろ。

”ヘラクレス” はい。


 装備は処分していいと言われたので、強化素材を取り出してクロスへ向かう。


 クロスに着いたらまず、アイテムボックス内で強化したいヘルム・ローブ・グローブを上段に並べて、同じ位置の下の段には強化するのに必要な専用の強化石を配置しておく。

 アクセサリーに関しては、強化石ではなく強化されていない現物の用意が必要になる。

 

 出来れば落ち着いてしたいと考えた私は、噴水側の空いているベンチに座った。


 アイテムボックスを閉じて、視界右下にある歯車マークをタップすると格子状のツリータブが開く。その五段目右端にあるトンカチマークをタップすれば、視界中央にタブレットより少し大きい窓が立ち上がった。

 窓の中には更に二つの小窓があって、左が強化したいアイテム、右が強化素材をそれぞれ入れる。るあり、トンカチのマークの下には強化しますか? と書かれている。


 まずは、マジックローブを強化用の小窓にアイテムボックスからドラッグして、ローブ用の強化石をもう一つの小窓にセットする。


{[ren] 拾った+15マジックローブとローブ用強化の石}

{[さるいく] 善悪の塔20階層行 @盾、近接募集~ 密談plz}

{[宮様] ちょ! 勿体無い!! 買うから売りなさい!}

{[ティタ] 俺の装備より良いもの燃やすなー!}

{[黒龍] 十八出来たら買うわー!}

{[訴人] まじかよー。もったいねー}


 何の興奮もなく、トンカチマークをタップ。

 画面が切り替わり横に伸びた灰色の長い棒が、徐々に赤くなる。

 チンッと電子レンジが出来たよって知らせるような音を立てると、画面上に噴出しに囲われたビックリマークとクエッションマーク(!?表記にします)が出現する。


 それをタップすれば成功か? 失敗か? が判るシステムとなっている。

 こういう遊び心は好き。とか考えながら無心でタップする。


 ボンッ!


 失敗した音がなり、+15マジックローブとローブ用強化の石は消えた。

 システムログをコピーして貼り付け全チャに流す。


{[ren] 残念【 +15 マジックローブは強化に失敗し消失しました。 】}

{[宮様] ren!! 今すぐ止めなさい!! 全部、私が買うから!}

{[白聖] ウケル。宮ネェ必死過ぎwww}

{[大次郎先生] ren、落ち着け。燃やす前に売ろう?}

{[キヨシ] 勿体ないわ……。俺が100ゼルで買ってやったのに……}

{[ティタ] キヨシ、お前貸したゼルいつ返すの?}

{[ロゼ] 誰だよrenに装備やったやつは……!}

{[キヨシ] 売れる装備ができたら?}

{[ティタ] 殺す! お前今どこいるの?}


 まだ、キヨシはティタにお金返してないのか。強化狂いだからなぁ……一生返済はないかもしれないね? なんて死んでも言えない。


{[ren] 次ー。+10闇のリングと闇のリング}

{[白聖] まったぁぁぁ!! 俺買う。25M出す! それで買うから燃やす前に売ってくれ!}


 白聖も友達だけど、ケチの付いた物を売りたくないのでスルー。

 手順は同じで、!?マークを待つ間、全チャのフレたちの会話を楽しむ。


{[白聖] ren。無視はダメだ。ちゃんと返事しろ? 値段適正価格だろ売れよ!}

{[黒龍] 白、諦めろ。相手がわりぃ}

{[宮様] 白、諦めが肝心よ!}


 画面を見れば、!?マークがしっかりと出現している。

 ポチっとタップすれば、ピロリロリンと成功を告げる音がなり、アイテムボックスに+11闇のリングが追加されていた。

 自分が持つ+15闇のリングを超える物ができるまで強化を止めるつもりはない。


 もう一度、画面を開き+11闇のリングを入れてセットし再度トンカチマークを押した。


{[白聖] 反応が無いということは、成功したのか? そうなのか?}

{[大次郎先生] だろうな。消失するまでヤルのがrenだ}

{[ティタ] 先生のご高説いたみいります}

{[黒龍] wwww ティタ頭打ったのか?}


 噴出しの!?を見て、ポチっと押せば、ピロリロリンと成功を告げる音がなり、アイテムボックスに+12闇のリングが追加される。

 

「チッ」


 こんな簡単に十二になるなんて……と考え、イラっとして舌打ちする。

 しつこく、闇のリングを強化した。

 気付けば+17闇のリングがアイテムボックス内にできていた。ケチがついてはいるが強化値が自分の+15闇のリングより高い。なので、さくっと自分の分と交換して+15を売りに出す。

 流すのは商売チャット(頭文字に $ を表記)だけど。


$[ren] +15闇のリング 値段応相談値引きします。密談plz


{[白聖] +15とか……}

{[ren] っ分割}

{[白聖] トイチだろ?}

{[ren] y}


 白に冗談でトイチと言われ、軽く冗談に乗った途端黒から密談が入った。


”黒龍” 買います! 40Mでどう?

”ren” 売る。クロス

”黒龍” kk


$[ren] 売れました。


 売れたと流せば白が全チャで発狂している。

 まぁ、これも時の運だしね? 諦めて。


 こうなった白を宥める彼女が可哀想ではあるが、こればかりはお金持ってる奴が優先だと割り切る私。

 黒が来るまで暇だから、残り二つを全茶に流しをさっさと強化する。

 

 +7アイアンブーツは、一回目の強化で消失。頑張ってくれた、+6ミスリルプレイトメールも+10で消えて行った。


 取引場所にレッドじゃない黒が現れる。

 無言のままトレードを申請すれば、さくっと了承してくれた。黒と共有したウィンドウに指輪を入れる。物を確認して黒がお金を入れ、どちらも完了ボタンを押せば取引終了となる。


「なぁ、ren」


 +15闇のリングを手に入れホクホク顔の黒が、少しだけ真面目な顔をする。


「ん?」

「そろそろ時効だろ? クラン作らねーの?」


 クランとは、病ゲーをプレイするプレイヤーが、所属すれば、専用のチャット、倉庫が使える。また、仲間とクエストをこなしたり、攻城戦をするためものだ。


 私は、自分勝手が通らなくなるから倦厭してる。昔殲滅の破壊者と言うクランをノリで作って、解散したのだけれど……。解散した理由は誰にも話してない。と言うか、話せる内容じゃなかった。


 どうして今更クラン? と、聞いてみれば、黒は頭をガシガシ掻いて、真っ直ぐに私を見つめる。


「解散した理由は、俺ら全員が知ってる。卑弥子とキヅナに聞いた。それでも、やっぱ俺は皆と一緒にいてーんだよ」


「はっ?」


 理由を知ってると言う黒の言葉に驚き固まる私を余所に、黒は再びクランを作ってくれと切々に語った。

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