第329話 ドラパレ攻略⑤

 ドーラヒュージアリゲーターの攻略方法なんか浮かぶわけもなく、私たちは必死に走り逃げた。

 その道中、このエリアに沸くモブらしき死骸が降ってくる。


 体長五十センチはある赤蟻ドーラジャイアントアントとそれを食べるのであろうアリクイドーラアントイーターだ。

 もしかしたら他にもいるかもしれないけれど、この階層はこの二つが主だったモンスターなのだろう。


 鰐の速度は意外と遅く、皆の表情に笑顔が見え始めたその時――。


「ぁ!」と言う可愛らしい声を残して、女の子走り―—両手の小指を立て、X脚走りをしていた小春ちゃんがこけた。


「小春ぅぅぅ!」

「尊い犠牲だった……南無」

「生まれ変わって女になれると良いな……」


 叫ぶチカ、キヨシ、鉄男の三バカの会話を聞いていたはずのメンバーたち―—私を含め―—は、誰一人足を止めることなく倒れた小春ちゃんを置き去りにした。

 

『あんたたち覚えてなさいよぉぉぉぉん!!!』


 鰐に食われながらPTチャットで、どすの効いた声で小春ちゃんが恨みをこめ絶叫する。

 その声を聞きながら、後ろを振り返ればちょうど鰐にゴックンされるところだった……。


 小春ちゃん……いつか、敵は取るからね……多分。


 小春ちゃんを軽く一飲みした鰐が、私たちを餌と認定してしまったようで追う速度が上がる。


「やべぇぇぇぇ、俺タゲられてるぅぅ!!」

「あぁ、移動速度がー!」

「ちょ、ren! 自分だけ生き残ろうとしてるだろ!!」


 叫んだキヨシは、どれだけ自分が好きなのだろうか? 移動速度が落ちたため自分にだけバフをかけていたら、横を走る雪継にバラされた。


 恨みがましいメンバーたちの声が、ドラパレ五階に木霊す。

 が、無視だ! 今は生き残ることを優先したい!!


『小春、死に戻り?』


 真面目に攻略する方法を考えていたらしい先生が、小春ちゃんの復活場所を確認しようとして問う。


『生きてるわよ~ん。鰐の中って……だったわ~ん』

『『『『は??』』』』


 HPバーが減っていない事から生きているのは分かっていたことだけれど、小春ちゃんのパラダイスの意味がわからない。

 小春ちゃん曰く。

 鰐のお腹の中は海が広がり、孤島点在している。

 一つ一つの島は大きくない。一つの島に宿屋やカジノ、アイテムショップがポツンポツンと建っているそうだ。


『鰐に食われて、ついに視界まで逝ったか……』

『ちょっと! 白影、失礼じゃな~い? 身体も心も乙女よ!』

「小春がキモイ……」

『それで何がパラダイス?』

「リアルマッチョだもんな~。小春ちゃん」

『renちゃん。聞いてよ~ん。エステがあるのよ~ん。温泉もリラクゼーションルームまであるの~ん!』

「鰐の腹は、隠された群島の街っぽいな」

「その言い方、すげー語録が……わりぃ」

『そうそう、言い忘れてたわ~ん。renちゃんが好きそうなもあったわよ~ん』


 小春ちゃんの言葉を聞いた瞬間、私の本能が足をピタリと止め立ち止まる。迫る鰐を振り返った私は、さぁ、食えと言わんばかりに両手を広げた。


『あー、これ攻略止めていく感じか?』

『バフいなくなったら詰むし、行くしかないだろ……』

『renの眼があんなに輝いてるの見たのカリエンテ討伐以来かもw』

『食われよう』


 鰐に食われる私を他所に、皆が渋々立ち止まり鰐を待つ。

 長い舌でチョロッと巻かれた私はそのまま丸飲みされた。


 街と街を移動する時のような浮遊感を感じて目を開ければ、眼前にはコバルトブルーの海が夕日を浴びてキラキラと輝いている。

 潮の満ち引きがあるらしく、波が押し寄せては引いていく。


 鰐のお腹なのに夕日があって、潮の満ち引きがあるとか……あ、そうか! 鰐が動くたびに海水胃酸?が動いてるのかも。

 あーなんか嫌な想像してしまった。よし、考えるのやめよう。

 ウミキレイダナ……。


 海に点在している森が島なのだろうと予想しつつ、ぼーっと海を眺めてしまった。


 私が海を眺めている間に、次々とメンバーたちが鰐に食われ現れる。

 隣に一人また一人と立ち、海を眺めては頭を振っていた。


 きっと、皆も同じ想像をしたのだろうとあたりをつけた私は、目的の店を探すため移動方法を探すことにした。


『小春ちゃん。移動手段plz』

『砂浜に居る海亀よ~ん。爆弾タートルボムエッグ渡すといいわ~ん』


 え? ここで使う用だったの!! モブに使うのかと思ってた。あ、博士から回収しないと……。


「博士。


 にっこりと笑って博士にトレードを出せば、博士は悲壮感をにじませた顔で渋々十個だけ返してくれた。

 他のメンバーたちも博士にトレードを出しているのか、段々と博士の背筋が丸みを帯びていく。

 最後のトレードだったらしい春日丸が終わった頃には、両手をつき「我の研究材料がっ」と言いながら泣いていた。


 今度来たときは、ドロップを渡してあげようと頭の片隅にメモを取り私はさっそうと砂浜の波打ち際に向かい歩き出す。


 海亀は、直ぐに見つかった。

 すぐさま海亀に爆弾を渡す。すると海亀は恐れ、慌てたように動き出す。

 急いで海亀の甲羅に乗ろうとした私は、傍と気づく。


「海亀なのに戦車並みの武装だ……どこに乗るの?」


 海へ這いずる海亀を追う。

 そんな私の目の前で、チカが板に乗り「ひゃっほ~! 海最高だぜ~」と言いながら、一回転していた。

 

 あれに乗るのか……バランス大丈夫かな? バランスボールですら十秒持たない私だ。不安で仕方がない。


 浦島太郎が竜宮城へ行く時、亀の背中に乗ってとか言う歌があったがあれは嘘だ!

 否、嘘ではないが……この世界の海亀は、口枷?? のようなものから伸びた鎖に繋がった一メートルほどの板ウェイクボードに私を立たせ運んでいる。


 安定感も何もない。ただ、システム上落ちない仕様のようで、どんなに揺れようとも板から足が浮くことは無い。

 ただ、この海亀の操作方法が分からない! 誰か助けてと、泣きそうになりながらPTチャットに助けを求めれば黒が教えてくれる。 


『操作方法plz』

『手に持った鎖のどっちか引けば、そっちの方向に行くぞ』

『あり』


 無事海亀を操れるようになった私は、漸く一つ目の島に到着した―—。

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