第328話 ドラパレ攻略④

 結果から言うと、亀は雷魔法に弱かった。

 前衛組がデバフ覚悟で、亀に攻撃を仕掛ける。五分に一度の割合で卵を生み出す亀に対して、キヨシがお得意のサンダーストームを打つ。

 サンダーストームを受けた亀が異常なほどもんどりうつ……。

 それを見たさゆたん、ゼン、博士が雷魔法を連発して亀死亡。


「亀には雷。覚えておこう」


 亀がポリゴンになり消えていく。

 それを見ながら勝ち誇ったように片腕をあげ、チャンピオンポーズを決めたキヨシが全員にスルーされたのは言うまでもない。


 三階は、亀の巣窟で生み出され床の下に落ちた卵は、私たちが床を踏む音で起爆することがわかった。

 ドロップは、クエストアイテム、ゼル、亀の皮、甲羅、卵——爆弾である。

 爆弾ドロップに喜んだのは、言うまでもなく博士だ。

 それを必死にメンバーが、回収しようとしていたのが印象的だった。


 マッピングが終わり四階へ。

 階段を登り、見える世界は高い空、広い平原、高い草、草、草……。

 サバンナと言えなくはないけれど、どちらかと言えば湿地帯だ。

 このフィールドに高い木が、一切存在しないのは気になるところ。


「うわー。恐竜でそうじゃね?」

「ジェ〇シックパークのことか? 俺的にはサバンナだなー」

「俺の中で今、ムーの群れが走ってる」


 相変わらず意味が分からない会話を繰り広げる三バカ――チカ、キヨシ、鉄男。

 誰も答えないどころか、もう完全にスルースキルを発動している。


「気を付けて進もう。一応、全員爆弾耐性ポーション飲んでおこう!」


 いつもの事だけど……、何事もなかったかのように言う先生も中々鬼畜だ。

 そんなこんなでべちゃつく道なき道を進み始めた私たちを待っていたのは、ムーの大群ではなく、ジャイアントドーラモスの大群だった。


 体長一メートルもある蛾は、身体が黒、目はハエのような網目状。羽は黄緑色で、中央の模様が白く目玉のような形をしていた。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」

「きもいぃぃぃぃ!」

「いやでしゅぅぅぅぅ」

「キモ、無理、キモ、キモッ!」


 鱗粉を振りまき、周囲を飛び回る蛾を除け大和、鉄男、チカ、さゆたんが叫びバラバラに逃げ惑う。

 それが更に蛾を呼び寄せ、群れは既に数百近い。


「黒、大和、白影ヘイトで集めて、博士、キヨシ、ゼンはファイアーストームで攻撃!」


 いち早く蛾の大群の中から、先生が指示を飛ばし蛾の殲滅を試みる。

 だが、そこに――。


オイリードーラブロックきたぁぁぁぁぁ!!」


 と、聖劉が叫ぶ。

 バフを配り、聖劉を振り返った私はあまりの気持ち悪さに固まった。


 カメレオンのような眼は赤く、百八十度動くようでキョロキョロとあちらこちらを向いている。

 脂なのか、油なのかわからないテカる液体を振りまき、びよーんとジャンプした蛙は、大きなおなかをブルンと震わせた。


 体長は二メートル、身体は気持ち悪い吹き出物のようなイボイボのついた焦げ茶色。腹側は白く、焦げ茶色の何かがうごめいている。

 蛾を捕食するため動く。

 四本の足をバラバラに動かしながら、蛾を狙う。


 無理、無理無理無理!! あんな気持ち悪い蛙いるなんて無理!!

 昆虫の足が四本以上のも無理だけど!! Gよりもきもいぃぃぃ!


「イリュージョン、カリエンテ」

「ちょ!」

「バリア、小春。バリア」

「バリアよ~ん!」


 鳥肌の立つ腕を摩った私は、気持ち悪さに耐えかねてカリエンテを呼び出す。

 詠唱を側で聞いたらしい村雨が、焦り小春ちゃんを呼んだ。


 空を割り、カリエンテが姿を現す。

 と、同時に小春ちゃんのバリアが、皆を包み込む。

 深紅の羽を羽ばたかせ降り立ったカリエンテが、蛾の大群を蛙ごと焼き払った。

 塵となりはて消えていく蛾と蛙の姿を見た私は、額を拭いながら一息つく。


「ふぅー。これで安心」

「「「「「……じゃねーよ!!」」」」」

「ren、お前ね~。もう少し報連相ちゃんとしような?」

「蛙は無理だった」

「まぁ、気持ちはわかるけどなー。せめて、一声かけろ!」

「「まったくだ」」


 先生と白に諭され、頷いておく。

 キヨシとチカが白のセリフに同調したように声をあげる。それに少しムカつくものの、また説教されるかもと言う思いから反論するのを止めた。


 四階は、蛾、蛙、バッタの巣窟だった。

 蛙の攻撃を見たいと言う博士のために渋々、戦うことに。

 蛙の攻撃は、ジャンプして相手を押しつぶすか、舌で絡めとり気持ち悪い液体が大量に貯められた口へ放りまれるかのどっちかだ。


 お腹の蠢く物体は、オタマジャクシで、同じくイボイボしていた。

 そして、このオタマジャクシこそ爆弾だった。

 蛙が飛び、お腹が揺れるとオタマジャクシが空中に放り出され、着弾と同時に爆発する仕組みだ。

 嫌な攻撃ではあるけれど、蛙は全身に油? 脂? を纏っているせいで火に弱く、一度燃えれば時間を稼ぎをしつつジャンプしそうになったら、カウンタースキルでショックを与えHPが枯れるのを待つだけ。


 この階でも爆弾耐性ポーションが約に立つことは朗報だったが、私は二度とここでは狩りをしたくない。

 数を狩れるし、クエストアイテム集めには最高なのだが……蛙が無理だ。

 ドロップ品は、クエストアイテム、ゼル、ガマの油、蛾の鱗粉、バッタの内羽。


 と、言う訳で四階が終わり、五階へ。

 

 五階も同じ湿地帯……。嫌な予感をひしひしと感じながら進む。

 いい加減、蛙はもういらないと思いながら、ふと横を見れば遠方に山のような何かが見えた。


「ねぇ……あれ、何?」

「ん?」

「なぁ、あれ、動いてね?」

「どれ?」

「ほら、こっちに近づいてきて……」

「やべぇ、アレに潰されたら俺ら即死じゃねー??」


 遠くに見えていたはずの山が、段々と私たちの方へ近づいてくる。

 距離が縮まるほどに、その物体のシルエットがはっきりとしていく。


「鰐……」

「わに革の財布欲しいとは思ってたけど……これじゃない」

「ちょ、これどうやって倒すの?」


 蛙じゃないのは、本気で嬉しい。

 だが、東京タワーを横倒しにしたぐらいでかい鰐を相手にするのは、正直に言おう……無理だ。

 

 ドスドスと鰐が歩くたび、私の身体が大きく揺れる。

 尻尾を振るたび、周りの木々がなぎ倒され、巻き込まれたらしいモブがポリゴンとなり消えていく。

 

 近づく巨体を見上げながら、私たちは途方にくれた――。

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