第311話 最強は同盟の運営に尽力す㉓

 宗之助に引きづられて怪人クリスことかわいそうな芋虫は、牢に収容された。

 城に着いたところで何度も帰還スクロールを使ったみたいだけど残念。すべて却下しておいた。


 と言うことで尋問が始まった。見る限り尋問と言う名の拷問だった……かわいそうに。

 牢屋とか初めて使ったけど、まさかビンタ如きでダメージが発生するとは驚いた。

 牢に入ったところで宗之助の鋼の鎖鎌の鎖が外れ怪人クリスは解放される。


「なんなんだ一体― ―ぐふっ、ぶへっ、ごほおぁ」


 怪人クリスが言葉を言い終える前に宮ネェは往復びんたをかます。

 痛そ~~と言いながら笑っているクラメンを見ると本当に大丈夫なのだろうか? と不安になる。


 黒は、吹っ飛んで壁にめり込んだ怪人クリスの首根っこをひっつかみ座らせる。その正面― ―十センチも離れていない場所に、幼女の宮ネェが胡坐をかいて椅子に座る。


 パンツが……パンツが見えてるよ宮ネェ。


「おい。お前。ミッシェルっていう雑魚知ってるよな?」

「ちょ、宮?? お前言葉遣いおかしいから!!」

「こういう馬鹿には、普段通り言うべきだろ? つーか女キャラの中身が男なんて当たり前にあるだろ?」

[[ティタ] 宮ネェがご乱心だ!!]

「……ミッシェル? そんな奴知らねーよ!」

[[聖劉] 怖い。宮ネェが怖い!]

[[†元親†] 九州男児の底力~]

[[キヨシ] 犬が後ろでぷるぷるしてるww]

「宮ネェ、せめて女言葉でいこう? チカ、キヨシ俺の腹筋が崩壊しそうだからやめて?」

「知ってるだろ? 知らねーはずねーよなぁ? あ?」


 どこのチンピラですか? これは私が尋問したすべきじゃないだろうか? 宮ネェって敵だって分かるとキヅナより手が早くて、キヅナ並みに容赦なく口が悪くなるんだった。


「宮ネェ。変わろう。私が聞くよ。その間に少し冷静になった方が――」

「ヒッ!」

「ren……お前は大人しく魔法書作っとけーw」

「怪人がガチでビビってるから、renはこっちで大人しくしとこうね~」


 宮ネェが落ち着くように変わろうとしたら怪人クリスから悲鳴が漏れた。それを聞いた大和と黒に強制的に移動させられ、怪人から一番遠い場所へと追いやられる。


 何故だ! 私、何もしてなくない? なんで私が一歩傍にいっただけでガタガタ震えるの? 

 …………腑に落ちないけどいいか。私がいたら邪魔なようだし、この時間に魔法書でも作ってよう。


 いつも通りテーブルとクッションを取り出し、邪魔にならない位置—―尋問の内容は耳に届く位置だから聞こえるだろうと考えて、魔法書の複製を始めた。


「で? ミッシェル知ってるよな?」

「いやマジで知らねーって」


 変わらず切れ口調の宮ネェに対し、怪人クリスは本当に知らない様子で答える。


「ん-。もしかして……なぁ、怪人。M2、MISLってやつら知らない?」

[[大次郎先生] 鉄男何か知ってるのか?]

[[鉄男] ミッシェルのサブの名前なんだよねw]

「……M2なら知ってる。あいつがどうかしたのか?」


 鉄男の声が聞こえたかと思えば、聞いたことのない名前が出てきた。クラチャを見る限り、ミッシェルのサブらしいけどどうして鉄男が知っているのか? その答えは案外単純だった。

 ミッシェルはSNSをやっていてそこに堂々と自分のサブキャラの名前を書いていたらしい。


[[ティタ] え? ミッシェルキャラ作り直してないの?]

[[鉄男] してないんじゃね?]

[[源次] まー。あそこまで育てたキャラ捨てるの惜しかったんだろ?]

[[シュタイン] 馬鹿であるw]

[[キヨシ] 博士がまともなこと言った!!!]


 クラチャの内容を見ながらミッシェルについて考える。

 これまで私はミッシェルに――その残像に怯えてきた。理由は過去のアレのせいだ。

 途中加入のミッシェルは、私を慕うように接していた。だが突然態度を豹変させた。理由はわからない。私なりにどうにか話し合いで解決しようと試みたけれどミッシェルは会話すら拒んだ。

 そうして時間が過ぎていく間に、自分が信用したメンバーたちから口々にやってもいない事で攻められ、違うと訴えても嘘だと決めつけられる日々が始まった。


 クラメン全部が敵になったような気分で、日々を過ごす。ゲームにログインするにも怖くなりついには、クランを解散させた。

 その時、せめて誰かに相談できていれば少しは違ったのかもしれない。けれど、弱い私は誰にも言えずソロをすることにしたのだ。


 未だに心にくすぶる言葉がある。クランを脱退していくクラメンたちが最後にもう一度話し合いをしたいと訴えた私に告げた言葉だ。

『どうせお前は俺らを利用していたんだろう?』


 ふいに肩に手を置かれ、身体がびくりと反応する。


「ren。大丈夫か?」

「……あ、うん。ちょっと昔の事思い出してて」

「忘れろって言うのはきついだろうけど、ミッシェルのやったことは許されることじゃない。だからお前はキレていいんだ。俺とか白影もマジでミッシェルにはムカついてる。だから、奴と会えたらあいつが泣いて土下座するまで殺しまくろうぜw」

「ロゼは……ロゼは怒ってないの?」

「何にとは聞かないでおく。ぶっちゃけ俺は、お前に感謝しても怒る理由がねぇw」


 イケメン風に笑ったロゼが「あーでも、やりすぎには注意しろよ?」と言いながら鼻の頭をポリポリかいた。

 ロゼなりの言葉が、暗くよどみそうな私を元気にする。彼なりにずっと気にしていてくれたのだろうと思い感謝する。敢えて口に出してありがとうとは言わないけど。

 

[[大次郎先生] これでつながったな]

[[宮様] あっさりしたものね~]

[[宗之助] ミッシェルは馬鹿なのでござる]

[[黒龍] よし、全面戦争だな!]


 聞き取り調査が終わったようで、宮ネェの口調がおねぇに戻っている。のは良いが、取り調べの内容が私の頭に入っていない! それどころか、チャットのログさえ残っていない! ミスったー!!


 一人焦る私は、その後ログインした村雨によって救われることになる。

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