第305話 最強は同盟の運営に尽力す⑰

 目の前に広がるカリエンテの業火と死体を前に私は大きく息を吐き出した。


 元々の原因は合流したクラメンと千桜にある。

 奴らがやる気を漲らせはっちゃけた状態で次々に湧くモブを引きまくった挙句、見えない壁に阻まれ動けないバグを引き起こした。焦った私はプロテクを使ったことを忘れカリエンテを召喚する。


 結果、回復に専念していた宮ネェとチカがカリエンテの業火に巻き込まれ死亡。他のメンツは既に死んでいたから問題ないはず。

 二人には謝れと言われれば謝るけど、ほぼ棒読みの謝罪になるだろう。

 二度目までは順調だったのにどうしてこうなったのか、全く理解したく……できない。


 粒子になって消えるモブとカリエンテを見送り、再び溜息を吐き出した私は復活スクロールで起こしていいか確認を取り黒たちを起こす。

 起きるなり騒がしくなるクラメンたちをスルーして、連合のPT表示で全員が起き上がったかを見る。


『なぁ、こいつ起こすべきなのか?』と、チカが戸惑いながら聞いて来る。チカに答えたのは風牙で『あ~、なんかバグってるとこに突っ込んできた奴だろ~?』と、死体を踏みながら答えた。


 私としては知らない人を起こす場合、PTなら使う。一応マップを確認してうち以外のPTが居ないか探してみたけれど他にPTが居る様子はない。

 隠れている可能性もあることからディティクションスクロールを打ち上げて確認したが、マップに変化は見られなかった。


 白光――プレイヤーがソロでこの場に来た可能性が高くなる以上、モブが湧きまくるこの場で起こすよりも安全性を考慮して街で復活してもらう方が手間もなければ、面倒もない。


『見知らぬ人に復活スク使うの毎回すげー悩む』

『困ったわね~』


 死体を見つめる黒に宮ネェが困り顔で答える。そこへテクテクと短い脚を動かし近づいた先生が『放置でいいんじゃないか?』と言う。

 その場に居た全員が納得するように頷いたことから放置が決まる。


『起こさなかったら起こさなかったで絡まれそうだし、起こしたら起こしたで絡まれそうw』

『この名前見たことある気がする。どこだったかなー?』

『まぁ、雪。こういう手合いは見なかったフリするわいね』


 悩んでいるらしい雪継に千桜が諭している間、キヨシが死体に見覚えがあると訴えた。


 白光――勝手にハクコウと音読みで名前っぽく読む――は、白い髪をしたおかっぱ頭のエルフ――耳が長いから――で、装備は軽鎧を着た短剣職だと推察。多分、三次職の中盤から後半あたりなのだろう。


『お? キヨシの知り合いか?』

『キヨシさんご存じなんですか?』

『キヨシの知り合いなのか?』


 皆の問いかけにうーんと言いながら顎に手を添えて考え込むキヨシは、私とティタが会話途中で湧いたモブを倒し終えると同時に首を振り『思い出せないぜー!』と胸を張って答えた。

 

『ま、とりあえず狩りしよーぜ。悩んでても時間の無駄だろ?』

『だなー』

『死んだ分取り戻さないとな』

『見殺しにされたしなー』

『ほんとよね~』


 死んだ分取り戻すと言う源次の言葉を聞いたチカと宮ネェが同時に私を見ながら答える。故意じゃないと言い訳しようかと考えた私は、白の後ろにモブが湧いているのを見て急いでバフを入れた。


 個別バフを入れ終わり走る私を追って白が振り向き、すぐさま沸いたモブへ弦を弾く。後一歩と言う所で先にタゲを執られた私はムッとしながら白を見る。すると白は、ニヤっと歯を見せ笑うと親指を立てた。


『白、タゲ執るんじゃねーよ』

『盾の意味がっ!』

『お前らが遅いからだつーの』


 出遅れた黒と大和がブツブツと愚痴を垂れつつ続々と湧き出すモブへヘイトを入れていく。盾二人に追従しているのはティタと村雨で、他のメンツはその場に留まりそれぞれがゲッターサークルスクの順番やら、攻撃位置やらの調整をしていた。

 

 今回の引きではモブの量を調整たらしく、人数の割にはサクサクと倒し終わる。

 再び黒たちが引きに行こうと動き出したところで彼女と幼馴染を間違えてフラれた彼が「ちょっと、待って下さいよ! 何普通に狩りしてんですか! 、見えてないんですか?!」と大きな声を張り上げた。


 見えてるか見て無いかで言えば皆見えてる。ただ、知らない人だから存在を抹消しているだけだ。現に目が合った雪継も千桜も気まずそうに視線を逸らした。


『彼の事は見えてるけど……ここで起こすのもね~』

『まー、ないよなー』

『ぶっちゃけ、勝手に突っ込んで来て死んだんだからスルーでよくね?』

『復活させて、街まで送るとか怠い』

『事後処理が怠いよなー』

『ティッシュに丸めてポイってできないもんなーw』

『あんたたち……流石にその言い草はないわよ~』

『ティッシュってwww』

『キヨシ、草生えるからやめろ?w』


 肩を竦めた宮ネェを皮切りにうちのクラメンたちが次々と元も子もない事を言い出した。

 それを聞いていた悲しい人は顔を真っ赤にしながら、死体へ近いづく。彼を追うように千桜が後を追いかけ、雪継も苦笑いを浮かべ後を追う。


 復活させるなら勝手にどうぞと言わんばかりにモブへ向かって走り出す黒たちの行動に他のメンバーが誰も突っ込まないあたり本当にどうでもいいのだろう。


 物凄く古い言い方をすれば

【 死体<<<<<<|越えられない壁|<<<<経験値 】

 と言う表現方法が一番クラメンたちの心情を現すのに適している。


 壁と言えば、攻城戦の時の城壁、城外門の強化値段が吐血しそうなほど高かった。たった一度の強化で、300Mはヤバすぎる。壊された後に時間経過と共に自動修復+再強化してくれるなら、なんとか納得できるんだけど……そんなものは勿論あるわけがない。


 ロゼとしては税収から防衛費を出したいようだが、三城防衛するだけで総額900Mが消える。他にも騎士の配置やらで+100M~150Mが必要。

 二週間に一回1.45Gの出費になってしまう。流石に……これだと何のために城主になったのか判らない。


 SGの持ち城であるデメテルの税収が700M。ヘラが600~680M。ヘスティアが600M前後だと考えて最低額で税収を計算すると二週間で1.9G、防衛費が1.45G。無理だ! ガチで破産する未来しか見えない。


『16』

『はぁ、なんで防衛費に1.45Gも使う必要があるの?』

『ren、黒たち戻ったらバフ』

『10』

『ちょ、どうしてそこで防衛費の話?』

『1.45Gはたけーなー』

『ちなみに税収はいくら?』


 話に乗ってくれた風牙、ベルゼに答えようとした途端宮ネェから『ちょっと、ここでそんな話しないでちょうだい。チカ回復準備するわよ!』と、ストップがかかった。


 最近疲れた顔しか見せないチカが渋々杖を持ちあげ立ち上がる。さっきよりも少し多いぐらいのモブを引いて戻って来るティタ、黒、大和、村雨の姿を見とがめた私は、仕方なくバフの更新準備をするのだった。

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