第304話 最強は同盟の運営に尽力す⑯

 はた迷惑なことに雪継の用事とは、私にクラメンの面倒――寄生させる事だったらしい。

 雪継と千桜の自分の所だけ、連れて行ってくれなくて……と言う言分も理解はできる。出来るけど、何故私に来たのか納得できない。別にSGや二丁目に狩りに行こうかと誘ったりしていない。

 ただ、タイミングが良かっただけで……。


 順調にリポップするモブを狩りながら問いかけられることに答え、一時間半が過ぎた。


[[鉄男] ボスツアー終わったー。renそっちに合流していい?]

[[春日丸] ノ]

[[キヨシ] ずりー!!]

[[村雨] 丸、おは]

[[ゼン] おはようございます]

[[ren] フルPTで狩り中]

[[大次郎先生] 丸、ノ]

[[鉄男] は?]

[[ティタ] 明日は、槍が降る???]

[[†元親†] renが! 人嫌いのrenが

      フルPTで狩り中だとおおおおお!!]

[[宮様] おかえりー。丸]

[[ren] ティタとチカは覚えておいて?]


 止まっていたクラチャが流れ、ボスツアーが終わったようだ。また寄生しようと考えたらしい鉄男が、合流する気満々で聞いてくるが既にアースが共にいる。申し訳なく思いながら伝えるとティタとチカが大袈裟に驚いてみせた。


『BFのクランハウス増築したじゃん? 資金ってどうしたの?』と聞いたのは雪継で、経験値スクロールだと言えない私は何と答えようか悩みながらバフを更新する。


 流れる沈黙と見られている視線が背中に刺さって痛い。最初の頃のミツルギさんとかヒガキさんと同じ症状だ。

 彼らはうちのクランに所属してるメンツを、脳内補正で勝手に神聖化してる。憧れてるぐらいならいいと思うけど、このアイドルでも見るかのような視線は勘弁して欲しい。せめて自分と同じ職のクラメンだけにして下さい。私はゲームが好きで、ゲーム以外やる気のないただの廃人で社壊人でしかないのだから。


『で、どうやって稼いの?』


 雪継がしつこい。


『知ってどうするの?』

『いや~。俺らにも出来ることないかなって思ってさ……』

『城主になったんだから、お金には困ってないでしょ?』

『それが……』


 雪継は言葉を濁す。また何か余計なことをやったのではなかろうか? と思いながら、モブを見るふりをして雪継と千桜を覗き見る。

 雪継は苦笑い。千桜は、完全に顔が引き攣ってる! はぁ、何に巻き込まれたんだこいつらは……。


『で、どうしてお金が必要なの?』

『実は胡蝶の所が――』

『――胡蝶関係ならパス』


 聞いておいて遮るのはどうなのと言う表情をした雪継をサクッと無視して、リポップしたミニワイバーン――手のリサイズのトリケラトプスみたいなドラゴンを狩る。


「お、いたー!」と言う声をあげた鉄男が茂みから顔を出す。後ろから続々とクラメンたちが現れた。


「あら、本当にフルPTね~」

「来てやったぜー!」

「素材を集めに来てやったのである!」

「よー。雪継たちが寄生してたのか」

「そっちは誰がPTL? 連合飛ばす」

「寄生って言わないで欲しいわいね」

「先生、PTL俺だよー」


 当然のように会話が交わされ、アースの面々が浮足たつ。

 先生たちの後ろに引いて来たであろう大量のモブが見えなければ私もきっと喜んだ……多分。


『バフくれ!』

『周り走るね~』


 連合を組んだ途端黒は、クレクレと要求。大和は、いつも通り。皆が来てくれたからこれで視線の痛さから解放されるはず。


 バフを入れるとクラメンたちが楽し気に会話をしながらタゲを合わせ、引き連れて来たモブを狩り始める。

 途端に大量に引いたモブが、ドサドサと音を立て死んでいく。


『ここだとモブ幾ら引いても足りないな』

『奥にダンジョンあったよな?』

『うげっ、行くの?』

『近接入らねーよ?』

『まー、折角3PTもいるんだし、行ってみよう?』


 倒し終わった途端、黒、先生、源次、風牙、聖劉の順で会話が交わされる。奥のダンジョンにアースを連れて行く? いや、あそこは私一人で行って死にかけた場所だ。

 アースの面々があの攻撃を上手く躱せるとは思えない。

 しかも、人数が増えるごとにモブが増えるタイプの狩場であるドラパレで、難易度が一番高いダンジョンにお守りしながらいけるわけがない。


『無理』と言った私の意見に賛同するようにクラメン達が、次々と声をあげる。


『奥は無理だろ。俺ソロで行って死に戻りしたぞw』

 黒は、死に戻りしたんだ。


『拙者なんか、初撃加えた直後即死でござる』

 紙装甲なのに突っ込んだのか宗之助。


『俺も~!』

 回復が何故ソロしようと思ったの? チカ!


『あの中魔界だよなー。俺も、一発即死だったわー』

 白……弓だよね? せめて壁連れて行こう?


『あはははは、お前らダメだなー!!』

『とか笑ってるキヨシは、奥のダンジョン行く前に死んでたけどな!』

と言う冒険が俺を呼んでたからなー!』


 キヨシ……せめてたどり着いて。まー紙装甲以上に柔らかい職だから仕方ないと言えば仕方ないのか?

 って、紙以前の問題だった! まさか、モブいるところでゴミを発掘して死んだ? 狩場で発掘はない。それはないよ、キヨシ。


 楽しそうに笑うクラメンたちの横で、アースの面々が顔色を悪くしている。雪継と千桜は慣れているのか笑っていた。


『ちょ、あんたら全員おかしいだろ!! なんでPT推奨狩場にソロで行ってるの?! しかも、後半完全に防御力ないだろ?』

『獅子王諦めろ。こいつらはこういう奴らだ』

『雪の言う通りだわいね。BF=無茶と無謀だわいねw』

『そ、そんな……』


 悲嘆する獅子王さんの肩をポンポンと叩いた千桜が『それで、どうするわいね?』と聞く。


『ここから北に行くともう少し広い狩場があるから、そこで範囲でもするかー』

『あー、あの水場のとこな!』

『うんじゃま、移動しよー』

 

 当然のように範囲と言っているけれど、君たちよく考えて? どうみてもアースの面々は使えないし、ほぼほぼPTメンバーは近接。

 範囲を使える職が鉄男、キヨシ、ゼンさん、博士、私だけ。そのうち一人は近接で、魔法を放つよりPOTを投げ込む魔法職と無駄にMPを使いまくる魔法職&バッファーだ。

 ぶっちゃけ頼りになりそうな本職がゼンさん以外いない状態でどう範囲をするつもりなの?

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