第301話 最強は同盟の運営に尽力す⑬

 幼女犬に絡まれた理由をキヨシとチカに聞き、状況を把握する。


 たどたどしい言葉で話す二人の話を簡潔にまとめる。

 二人がカジノで遊んでいると幼女犬が、馴れ馴れしく話しかけてきた。幼女犬の言葉遣いに面倒そうだと感じたチカは最初から無視を決め。


 キヨシは、適当に「あー」「うーん」と相槌たしきものを返していた。すると幼女犬はキヨシをターゲットに定めたらしく何度振り払っても腕を掴んでくるようになる。キヨシはここで初めて危険だと感じたと言う。


 危機管理能力の低いキヨシにしては、早い方だ。


 チカとキヨシはPTを組み相談して、幼女犬から逃げようと試みる。だが、二人が幼女犬の元を離れようとする度に幼女犬は周囲にも聞こえるような大声で「いやですぅー。置いて行かないで下さいぃ」などと泣き真似をする強硬手段をとる。

  

「それで、困って最終的にrenを呼んだってわけね~」

「そうらしい」


 聞き取り途中で、中座した宮ネェに説明を終える。会話の間にキヨシとチカの二人には、今後も同じように絡まれたりする可能性もあるからと理由をつけて、カジノに行く頻度を下げて欲しいとお願いした事も伝えておく。


「はぁ~。あいつは、一体何がしたかったのかしらね?」

「……わからない。クランに入りたいと言う割には、バカにしてたみたいだし」

「うーん。難しい問題だな。とりあえずクラメンには私の方から話しておくよ」

「うん。お願い」

 

 その日はどっと疲れを感じて、ログアウトした。


 翌日、攻城戦の分配を受け取りに来たロゼ、雪継が丁度いいからちょっと報告があると言い出す。

 まさか、昨日のアレが既に掲示板で流れていたり? と、勘ぐりながら先生と宮ネェを呼び出し、話を聞く態勢を整える。

 

 会議室を解放して、全員が席に着く。

 座ると同時に、先生、ロゼ、雪継が、シンクロしたみたいに大きな溜息を吐き出した。


「それで、報告って?」

「まー、あれだ正直恥になるからあんまり言いたくないけど、情報の共有は必要だから報告しとくわ。三日前、うちのクラメンが、クラハン中に怪しい女に絡まれて…………一緒に狩りしたらしい」


 報告し終えるとロゼは、頭が痛いと言わんばかりに眉間を揉んだ。


「え!? 一緒に狩り? は? どうやってそう言う流れになった?」

「クラハンでしょ? それがなんで、一緒に狩りなのかしら?」


 ロゼの話に先生と宮ネェが呆れを含ませながら、状況説明を求める。が、そこにオズオズと手を挙げた雪継が……。


「えっと……実は、うちも二人ほど狩場でドロップ品を分けてくれって言われたらしいのがいるんだよね……」

「その時、雪はまだログインしてなくて、私が対応したわいね。起きたのは、四日ぐらい前で一緒に狩りして欲しいって言われたようだわいね」


 何と言うことだろう。まさか、うちだけではなくSGとアースにも魔の手が伸びていたらしい。

 悠長に構えていただけど、これは対策が必要だ。ゲームを楽しむために、どうすればいいか、考えなければ……。


「まぁ、他所の事をうちも言えないんだよな。昨日、カジノでキヨシとチカが話の通じない変な幼女キャラに絡まれてた。名前はれみる。一人称がれみたんで、語尾がですぅーって言う独特な喋り方をする」

「キヨシ達の話を聞いた限りじゃ、いきなりカジノで凄いですぅーって持ち上げてきて、腕に絡みつかれたらしいのよね」


 先生の話を引き継ぐように、昨日の夜二人に聞いた話を話す宮ネェ。


「二丁目は大丈夫か?」と聞いたのは白影で、小春ちゃんは「うちは今生産ラッシュ中だから大丈夫よ~ん」と答えた。


 二丁目以外の三つのクランで、似たような問題が起こっているのだ。白影が心配になるのも判る。


「キヨシとチカは大丈夫だったのか?」

「あの二人は、宮が殺して解放したから大丈夫。それよりもアプローチかけてきたプレイヤーの名前と見た目を共有しておこう」


 いい笑顔の先生が、みんなを見回す。

 目が合ったメンツが次々肩をビクつかせているのだが……何か問題でもあったのだろうか?


「はぁー。深くは聞かないでおくわ。えーっと、うちのメンツが絡まれたのは、会話が通じない感じの高校生っぽい女プレイヤーで見てくれだけは気合が入ってる感じだったらしい。名前はユュズ」

「特徴と言えるかは微妙だけど、妙にイラッとする話し方するやつだったぞ」


 諦めて肩を竦めたロゼの説明を引き継ぐように、現場に行ったらしい白影が顰め面で言う。

 人の好き嫌いが少ない白影が、顰め面をするなんて相当な相手だったようだ。


「ロゼは直でそのユュズに会ったのかしら?」

「いや、俺は別件で動いてて行ってないな」

「そう」

「ユュズはクラメンになんて言って近づいたんだ?」


「あーそれがな……」と、ロゼにして珍しく言い淀む。


 フォローするように宮ネェが「言い難いなら別に無理して答えなくてもいいわよ?」と言う。

 するとロゼは、言い難くはないと首を振る。


「うーん。クラメンの説明通りに説明すると多分こんがらがるから……どう説明すればわかりやすいか少し考えさせてくれ……」

「人に聞いた説明って難しいわよね~」


 理解を示す宮ネェの言葉に白影、先生、小春ちゃん、千桜が同時に頷く。


「じゃぁ、とりあえずロゼには考えてもらって、アースはどうだった?」

「あ、えっとねうちの場合は、千桜が説明した通りだよ」

「いや、だから……それを詳しく説明しろって言ってんの」

 

 白影が、雪継に突っ込む。

 

 大まかな説明は千桜がしていたけれど、場所とか状況とか名前とか見た目とか、クラマスとしてメンバーに聞いた内容を説明するべきだ。

 

「私が説明するわいね。キャラ名は、えるみる。見た目はスレンダー美女で、金髪。目元にほくろがあるわいね。話し方に特徴はなかったわいね」

「絡まれた方は?」


 言葉を挟んだ白影に、千桜は一つ頷き答える。


「クラメンが募集してた野良PTに入って狩りに行って、他のメンバーが帰還して、二人が帰ろうとした時にその女に声かけられたらしいわいね。どうしても必要なアイテムがあるから手伝って欲しいと言うニュアンスで」

「うーん。狩り終りにか……タイミング良すぎないか?」

「野良の場合、基本二時間前後終わるから、タイミング計る事はできるわよ~ん」

「確かに小春ちゃんの言う通りできるだろうけど、相手の女はどのPTにアースのメンバーが入ってるかはわからないだろ?」

「それはそうね~ん」

「もしかして、狩場で待ち伏せしてたとか?」

「ソロで善悪行くバカはいないと思うわいね」


 うちも含め三件の珍事件は、全てが偶然のようだ。が、話を聞いた私には偶然だとどうしても思えない。

 話の中で、何かが引っかかった。けれど、それがはっきりとわからない私は沈黙するしかできなかった。

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