第244話 第二回、帰れまテンinオリンポス・幻想峡⑦ 白影の想い?
先生とたべりつつ狩りを続けていると白影が走って私たちの所へやってきた。短髪で爽やかな見た目にどっしりとした鎧を着こんだ白影は、溌剌とした笑顔だ。
「ren、先生。あんがとな」
「何、どうしたの? 白影、頭おかしくなった?」
来て早々にお礼を言われて、意味が分からず呆然とする私。首――があるのか微妙な体系だけど――を傾げた先生は先生で、わからないのか酷い言い回しをしていた。
そんな私たちに苦笑いを浮かべた白影は「ロゼの背中押してくれたんだろ?」と言うとその場に座り込んだ。
「「あぁ~」」と、納得した返事が先生と被った。白影が座り込んだため、私も先生もとりあえずと言う感じで狩りの手を止め座る。
「それで、そっちはどう動くの?」
「あー、とりあえずオリンポス終わってからクラメン一人ずつ呼び出して、話して抜けるか残るか決めて貰う」
一人ずつ呼び出すって言うのはいい案だと思う。全員まとめて話した方が早いと思う人もいるだろう。けど、それでは今回の場合、一人が正義感から残ると言い出してしまえば、抜けると言い難くなる可能性も考えられる。
「いいじゃないか?」
「うん。まー、とりあえず、今オリンポスにいるクラメンたちには、ロゼが前もって話してるとこだ」
クイっと顎を指すように、さっきまで私たちが居た場所を白影が差し示す。つられるように見れば、真剣な表情をしてドワルグさんと話すロゼの姿が見えた。
「それで?」
「時期はまだはっきりとは言えないけど。今の所うちが城主だから、それをどうするかは一応一度話し合う予定。多分聞く耳は持たないだろうけど……。今週末の戦争で同盟内のクランに城を譲って、同盟解散するのが恨みは買いにくいだろう?」
「城主だとそうなるよな」
簡単に同盟解散を後押しをしてしまったが、実のところ事後処理がめんどくさい感じだったのではないだろうか? 白影はこの調子だし、ロゼも一度決めれば貫き通す性格だから大丈夫なのだろうが……。一抹の不安を感じるのは何故?
不安の原因が判らず困惑する私を他所に、先生と白影の会話は多方面に及んでいる。現在の同盟参加クランのマスター性格やクランの性質、問題を起こしそうなクラメンの名前などだ。
「シス帝がどう出るか次第だけどなー」
「シス帝って、フィスタルトのマスターだっけ?」
「そう。今は黙ってうちと他の傍観してるっぽいけど……あいつがごねると一番めんどくせー」
シス帝と言う名には聞き覚えがある。かつて、殲滅の破壊者クランのマスターをしていたおかげで、何度か彼と話をする機会があった。
その当時はやりたい放題なクラメン――キヅナとか卑弥子とかね――が、気に入らないことがある度、至る所に喧嘩を売っては戦線布告しろと脅し……じゃなかった。頼んできた。
その中に、シス帝のクラン――フィスタルトがあったのだ。
その当時の会話のイメージ通りなら、シス帝は、冷静で物事をきちんと見れる人物であり、会話の端々にクラメンに対する思いやりを持った人物だと思ったのだが、どうやら違うらしい。
白影の口ぶりから鑑みるに私に対してそう見せていただけ、もしくは中身――ごとか――の性格が変わったかだろう。
「フィスタルト以外は、うちでも余裕で潰せると思う」
「そうか、とにかく協力できることはするから悩む前に言えよ? ただし金銭は無理。うちもクランハウス立て替えたいし」
シス帝について考えている内に話が相当進んでいたらしく、話を聞いていなかった私には理解できないやり取りになっていた。「はぁ~。これでやっと自由になれる!」そう言ってその場にゴロンと寝転がった白影は、気持ちよさそうに手足を伸ばし目を閉じる。
全ての決断を下すのはマスターであるロゼの仕事だ。白影はそんなロゼを支え、副マスとしてロゼと同盟やクラメンたちとの折り合いを考え、実行し、自分の行動を我慢してきたのかもしれない。そう思った突端、白影に対し「おつかれさま」と口をついて言葉が出てしまう。
感傷に浸る暇すら与えてくれない白影は、焦ったように飛び起きると自分が強制的に離脱――寝かされると勘違いしたらしく必死の形相で「え? 俺まだ寝ないよ! まだ狩りするから~!」と叫んだ。
「……そう、じゃない」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない。狩りするからさっさとロゼのとこに戻って?」
再び寝ころぼうとした白影を叩き起こし、狩りをするからという理由で追い返す。どこか恥ずかしく思う私を、これまたどこか達観した笑顔で見る先生が、一番厄介だと思った――。
白影が去り、先生との狩りを強制的に再開する。
そんな中、フラフラした足取りで、聖劉が眠そうにあくびを噛み殺しつつ「遊びにきたよ~」と言いながら狩りに参加したのだが。
既に足元が怪しい聖劉に何を求めろと言うのか?
「聖劉、三十分寝て来れば?」
「寝たら起きれる自信が全くない!」
余りにも眠そうな聖劉に仮眠を進めてみれば、キリッ! とした口調で言いきられてしまう。
「あー、チカと同じタイプなんだな」
「……うっ、それなんかやだ」
先生にチカと同類にされることが相当に嫌らしい聖劉は、今にも落ちそうな目をこすり弓を構える。そんなチカは、まだ元気と言わんばかりに叫んではいるが、どうしていることやら。
遠距離で遠くからのモブを呼べる聖劉と鈍足で走る先生がモブを集め、私が範囲のブレスオブドラゴンで焼く。それを数回繰り返したところで、聖劉がハタと動きを止める。
「あー、そうだった。俺がここに来た理由忘れてたわー」
「理由?」
「なんか~春日丸が、PK相手のクラン解散してて、ほぼログインしなくなったの確認したから合流するってさっき密談きてた。相手はサブに逃げたんだろうけど、って。それでrenに密談いれたけど、開通してなかったから三日後にログインするから伝えておいてくれって」
「あ、そう。わかった」
聖劉から春日丸の伝言を聞き。慌てて密談を開ける。そう言えばロゼとの話し合いの最中に邪魔されるのがいやでオフにしていたのを忘れていた。
春日丸には迎えに行くときにでも謝っておこうと思う。
「春日丸のフレも一緒にうちにくればいいのになー」
「海神丸さんだっけ?」
「ren、丸いらないからね?」
「海神は、凄い。トーナメント戦で鉄男に余裕で勝ってたし、槍の中ではあの人が一番強いと思う」
「鉄男に勝ったところで大したこと無さそうだけど?」
「強いは強いよ海神。ただ彼ね、コミュ障だから~」
「renほどじゃないけどねー」
海神さんの話をしているはずなのに最終的には私がディスられている気がする。ポンポンと会話を交わす先生と聖劉は、むっとした私に気付かないまま勧誘するなら誰がいいのかを話し合う。
ただ、二人から出て来る名前が、ほぼほぼATKだったのは言うまでもない――。
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