第243話 第二回、帰れまテンinオリンポス・幻想峡⑥ ロゼの決意
ベルゼとの狩り中にロゼから『少しの時間でいいから、先生を含めて三人で話したい』と言う、メッセージが密談で届く。ロゼに分かったと返事を返し、ベルゼに少し用事を済ませて来ると伝える。
ロゼが指定したのは、皆が狩りする狩場の隅――今日ここに居る全員が、休憩で寝袋に入た場所だった。
「悪いな二人とも、呼び出して」
「いや、大丈夫」
「問題ない。それで?」
疲労が見える表情で片手をヒラヒラするロゼの様子に、先生と二人顔を見合わせ何があってもロゼと白影の味方でいようと頷き合う。
座るなり謝ってくるロゼにその必要ないと伝え、話の先を促す。
「まぁ大体は予想ついてるだろうけど、俺、同盟解散しようと思う。このまま話し合ってても埒明かない状況まで来てる」
「強制でってことか」
「あぁ、強制解散。解散した場合のデメリットは、元同盟参加クランから恨み買ってPKになるのと、戦争はスポーツ感覚でやれるからいいけど、PKが無理ってメンバーが抜けて人数がへる」
経験値スクロールの件でまた何かしら言われたのだろうロゼが、同盟解散を決意していた。ロゼが決めたのであれば私はそれを応援する。同盟に参加していた他のクランが仕掛けてくるのであれば、やり返せばいいだけだ。
「うーん。うちにとってデメリットは無いから、さくっと解散しちゃっていいぞ?」
「あ、いや、でも
先生の返しに何故だかロゼの方が焦っている。一体何をそんなに不安に思っているのだろう? 私は首を傾げ、二人の会話に割り込む。
「だから何? 相手の人数とか関係ない。ましてや、ロゼのクランの人数が減った所で、動きやすくなるだけで何も問題ない。理不尽でない限りPKは
「だな。ハッキリいうけどSGで使えるのってロゼと白影、後は今一緒に居るメンバーの内の何人かだけで、他は烏合の衆と変わらないから。ロゼなら、その辺わかってるでしょ?」
先生の辛辣な意見にロゼの表情が、僅かに引き攣る。だが、それも直ぐに真面目な表情に戻り「ありがとう」と、頭を下げお礼を言い出した。
「ロゼ、全部自分一人で抱え込むのは良くないぞ。相談じゃなくても愚痴ぐらい私が聞くから、いつでも言いに来い」
「あぁ、白影からもよく言われる」
「まー分かってるならいいけど」
ちょっと臭い友情を見せつけた先生とロゼが笑い合う。蚊帳の外で空気に徹する私はそんな二人に何と声をかけるべきか悩み、無理だと諦めた。
どこかスッキリした様子のロゼが、早速、白影や幹部の人たちと話すと告げその場を去る。先生と二人何をするでもなくロゼの背中を見送った。
そしてそのままの流れで、先生と二人で狩りを始める。二人で引いて、一気にまとめて範囲で倒す方法だ。鈍足であるドワだけで引くとそれこそ、ソロ以下の数しか狩れないため昔からこういった方法を使っていたのでやり易い。
「そう言えば先生、フォルタリア、知ってる?」
「フォルタリアって、雪のとこの同盟相手の?」
「そう」
「あぁ、それならわかるよ。私のリア友が所属してる。抜けたいって言ってるけど……」
モブを引き、殲滅しながらフォルタリアについて先生に聞けば、なんとリアルフレンドがフォルタリアに所属している事が判明する。
「できれば、詳しい内情と戦力になりそうなメンバーが知りたい」
「何、ren。PKでもしかけるつもり?」
「まだそのつもりはない。けど、雪継と千桜の状況次第ではする」
「くくっ。相変わらずだね」
思っている事をそのまま口に出せば、先生がくつくつと笑い呆れた声音を出した。そうして引いては殲滅を繰り返し、合間合間でフォルタリアについて先生が教えてくれる。
戦争クランであるフォルタリアは、マスターにロナウドDを置いている。副マスは任命していないため存在せず、全ての事象をマスターのロナウドDが独断と偏見で采配している独裁クランである。
アースと同盟を組んだのは八か月前、元々戦争関係をするつもりのなかったバンドー商会――生産者ばかりのクランが抜けた直後にフォルタリアが同盟に参加したそうだ。
参加した経緯とかは不明らしいから、ここは雪継に確認を取るべきだろう。
フォルタリアのクラン内の雰囲気は特に悪くはない。が、クランを抜けるもしくは抜けたいと思っているメンバーは多いようだ。その理由としては、強制クラハンとドロップ類、ゼルの集金――給料としての分配だろう。
それからもう一つ、同盟主であるアースに対して鬱憤が相当溜まっているらしく、クラチャで度々マスターのロナウドDが愚痴を零していると言う。それもまた、クラメンにとっては迷惑な話でしかない。
ロナウドDが漏らす鬱憤の要因は、簡潔にカリエンテの討伐、同盟解散の提案。
「ぶっちゃけ、リア友が言うには、ロナウドDは、相当にがめついらしいよ。解散には同意するとしても、賠償金は間違いなく吹っ掛ける。それがだめなら自分たちもこっちの同盟に入れろって言い出すだろうってさ」
「めんどくさい」
「正直関わりたくないな」
はぁ~と二人大きく溜息をついたところで顔を見合わせた。今後同盟を組むことは絶対にありえない。だが、十二分にフォルタリアの件は注意すべきだ。
先生のフレが語った内容を雪継たちがどこまで把握しているのかも気になるし、一度きちんと話をすり合わせておこう。
その後、ふと先生からクランで運営している露店の商品についての話題が上がる。うちのダントツ人気は経験値のスクロールなのだが、露店に新たに設置された掲示板には魔法書や宮ネェの細工物。そして、ヒガキさんの作る飲料関係と軽食、ゼンさんの皮製品を多く売って欲しいと言う書き込みが多くあるのだとか。
ちなみにゼンさんだが、意外なことに裁縫とレザークラフト士と言う少し変わった代行を覚えた。代行で裁縫を覚える際、調べたところ彼の得意な素材が皮だったらしく。それならとレザークラフト士と言う代行を覚えなおしたそうだ。
レザークラフト士とは、主に皮製品に関するエキスパートの事であり、リアル専門学校などもあるらしい。
ゼンさんが得意素材――皮で作り上げた鞄やベルト、ちょっとした小物などはリアルの既製品と変わらないほど美しい見た目をしている。しかも、使い心地もいいらしくキヨシや黒、白、聖劉はこぞってゼンさんの作品を使用するほどだ。
「経験値のスクと魔法書は、折り合いもあるし増やせないけど、ヒガキのコーヒーとゼンの皮製品は増やしていいよな」
「ヒガキさん、ゼンさんは、まだまだ装備にお金かかるから、本人たちがやる気あるならいいんじゃないかな?」
「だな。伝えておくか。ミツルギも何か、代行あればいいんだけどな~」
「代行は強制するものじゃないから、本人がやりたいものが見つかるといいけど」
「そうだな~。あぁ、露店拡張したいなー、キヨシのせいでゴミが増えすぎてる!」
先生とまったり話すのは、新規加入のクラメンたちの事。それなりに気にはなっていたので、折角ならばと先生からみた三人の話を聞く。
それから、話は流れてクラン運営に関するあれこれを相談し合い。結果、真面目な話をしていたはずなのに、雑談として盛り上がった――。
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