第212話 最強はアップデートを楽しむ㉞

 思わぬボスの攻撃で乱れた戦場は、再びの拘束でなんとか落ち着きを取り戻した。

 同じようなことがないように、徹底しないとな。それにしても、ボスの強化の仕方が本当にえげつない。運営は何を考えてこんなに強化してるんだろう。考えた所でわからないものは考えないようにしよう。

 大きく息を吐き出し気持ちの切り替えた。


『毒羽注意しろ』


 コカトリスの眼が紫色に光り、ロゼが叫ぶ。

 数秒後ボスの周囲に羽を巻き込んだトルネードが出現する。その範囲に私は驚き動きを止めた。ボスの周囲に出現したトルネードは、ボスを中心に白達遠距離職がいる位置まで達している。距離にして約二十メートルほどだ。

 カリエンテの討伐で見た赤いラインの攻撃を思い出し、ヒヤリとしたものを感じてゾッとする。


『やばいな。範囲広すぎる上に攻撃が地味に痛い!』

『これは死ねるわいね』

『紙はヤバイっす!』


 春日丸、千桜、ミツルギさんの声に慌てて連合を開き、HPバーを確認した。

 聖劉が丁度いいタイミングで、攻撃を食らう。それを横目にHPバーを見る。トルネードに当たった直後、三割ほどのHPが減った。その後ドット攻撃――時間経過により継続してダメージが与えられるもの――なのか五秒に一度僅かにHPバーが減っている。


 一見大した攻撃ではない。

 が、回復職にとってこの攻撃はMPを減らす痛い攻撃になっている。

 次からバリアを回して防ぐべきでは? とも考えた。しかし、それではボスがヒヒになった時の即死ダメージを防ぐのに不安が残る。逃げるのもありだけど、そうなると多分コカトリスのレーザーが飛んでくる比率が高くなるはずだ。

 以前の討伐を顧みて、間違いないと踏んだ。アップデートで強化されているとしてもそこに変更は入っていないだろう。

 そうなると……逃げるのも危なくなるし……。


「どうするか……」

『ん? どうした、ren?』


 悩むあまり言葉が漏れていたようだ。反応した雪継にせっかくだし相談してみよう。一人で悩むより相談するべき事だよね? 

 

「ねぇ、雪継」

「ん?」

「コカの毒羽どうにかしないとMP枯渇するんだけど、どうしたらいいと思う?」


 突然の質問に両手で槍を構え持った雪継が首を捻る。


「…………うーん。逃げる?」


 構えていた槍を地面に突き立て、顎に手を当て沈黙した彼が出した答えは至極ありふれたものだった。しかも、逃げる一択。


「逃げるとレーザーが倍増すると思う」

「マジ?」

「y」

「うげぇ……それはめんどくさい」


 本当に嫌そうな表情をして見せる雪継に、苦笑いを浮かべる。どうしたらいいのか相談したつもりだったが、雪継の表情を見る限り答えは出なさそうだ。

 と、そこへ入口を見ていた雪継が「お、戻ったか」と呟き、補充に戻っていたクラメンの方へと行ってしまう。仕方なくクラチャを開き先生やクラメン達に相談する方向へシフトした。


[[聖劉] 風の範囲広くなってる?]

[[キヨシ] あ、危ない、俺!]

[[ren] 先生。このまま毒羽受けるとMPジリ貧]

[[†元親†] MPPOT大量に欲しい!]

[[大次郎先生] 私も考えてたけど、逃げるのはまずいよね?]

[[黒龍] 逃げるとレーザー全開だろ?w]

[[ティタ] バリアダメなの?]

[[宮様] 風受けられるとMPががっつり持っていかれるから辛いわね]

[[ren] ヒヒ単独になった時の即死攻撃が怖い]

[[鉄男] 全開はまずいな。紙が即死する]

[[さゆたん] 取れないでしゅか?]

[[ヒガキ] ポーションなら少し余裕あるので分けますよ]

[[宗之助] ダウンか……狙ってみるでござるよ]

[[源次] 俺らの腕の見せどころか?w]

[[白聖] ダウン取れて、スキルカットできれば最高!]

[[ミツルギ] ……自分自身ないっすけど……]

[[大次郎先生] 試してみる価値はあるね]

[[春日丸] ボスにスキルカットが効けばいいなww]


 さゆたんの一言で、ボスに対しダウン――スキル発動時無防備になったボスに対しクリティカル攻撃を仕掛け動きを止めるもしくは、押し倒す――を試すことになった。

もしこれが成功するのであれば、今後タイミングを合わせボスのダウンを狙いスキルカット――スキル使用直前に不測の事態を起こしスキルの発動を停止させる――することができる。

 スキルカットをするのならクリティカルヒットを狙うのに様々なスキルを持つ適役の暗殺者系のプレイヤーである宗之助、源次、ミツルギさんが主体になる。


『次、毒羽来たらスキルカット狙って、ボスの眼の色と鶏冠に注意で~』


 早速試すことを指揮チャットで流す先生の声に、周囲のプレイヤー達も頷き反応を返していた。


 そしていよいよその時がやってくる。

 コカトリスの瞳の色が紫になり、鶏冠が大きく膨らんだ。スキル発動のため動いていた首とヒヒの身体と頭がピタっと停止する。

 息を呑みタイミングを計っていたらしい先生の『今だ!』と言う声に、短剣を持つ暗殺者系の近接ATK達が一斉にスキルを発動させボスへ叩きこむ。乾いた木をたたき割るようなすがすがしい音が連続で上がり、間違いなくクリティカルヒットを浴びせた音が響いた。

 と同時に、コカトリスの頭上に失神状態を表すエフェクトが現れる。


『……やったか?』

『いけた!』


 静まり変えるボス部屋内に、白影の声が響き、ロゼがそれに答えた。

 全員がコカトリスの瞳の色がもとに戻った事に安堵する中、ヒヒが瞳の色を黒に変わり鎖で塞がれていない口を大きく開いた。


『宮ネェ、バリア!』


 気付いた瞬間宮ネェにバリアを要求するも一歩及ばず、ヒヒのブレイジングフレイム――炎を纏った岩石を連射する広範囲攻撃――の直撃を受けてしまった。

 三割まで減ったHPバーを見ながら、起き上がりHPPOTをがぶ飲みする。今回狙われたのは、ボスからもっとも遠い距離にいる回復、遠距離魔法職のグループばかりだった。


[[さゆたん] 痛いでしゅ!]

[[宮様] 死ぬかと思ったわ]

[[シュタイン] ヒヒの癖にである!!]

『コカピヨッた瞬間、ヒヒが来るのかよ……クソ過ぎる』

『どっちもいてーのかわんねーよぅ!』


 悪態をつく黒の言葉をかき消すように、ヒヒの攻撃を受け弾き飛ばされたらしいチカが言葉をかぶせた。


 漸くなんとかなるかと思われたコカトリスの毒羽対策のスキルカットだが、それを行えばヒヒの範囲攻撃が来る。それよりも今考えるべきは、スキルカット時のヒヒをどうするかだ。同時にスキルカット出来れば問題はなくなる。回復のMP関係もあるし、バリアのタイミングがあわなければさっきの被害が再び出ることになる。ならばアレを使ってみるのもいいかもしれない。


[[ren] 先生。スキルカットだけど、コカとヒヒ半々で別れてもらって]

[[ゼン] 減ってる気がしないね]

[[白聖] お? なんかいい考え浮かんだの?]

[[大次郎先生] 半々?]

[[宮様] ヒガキ。悪いけどMPPOT頂戴]

[[ren] そう。半々で、コカ先にスキルカット、出来たらヒヒカットで]

[[ヒガキ] はい]

[[†元親†] あぁ、ボス殴りたい!]

[[風牙] やべぇ、何してもいてぇw]

[[大次郎先生] 了解。指示出す]


 詳しい説明を求めることなく、先生は指揮チャットにコカトリスとヒヒの同時のスキルカット指示を出していた。各クラン毎に二手に別れて欲しいだけ付け加えていた為、後はクラン内での話し合いだ。うちの場合は、前半に、源次とミツルギさんが、後半に宗之助、白と聖劉と言う別れ方になった。


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